第269回
人生は表階段だけではありません

日本では作家とか評論家とか
エッセイストという文筆稼業は、
名前をよく知られ、また収入もそんなに悪くはないので、
比較的に世間から鄭重な扱いを受けています。
知的な職業であり、社会的な影響力を持っていると
思われているからでしょう。

私が小説家として直木賞をもらったのは
私が31才の時でした。
普通、直木賞は芥川賞と違って
プロの作家にくれるものでしたから、
45才前後で受賞というのが多く、
私の若さでもらうのは画期的なことでした。
のちに私より若くもらった人も現われましたが、
私の場合はその後、間もなく
お金をテーマにとりあげるようになりましたので、
成長途上にあった日本産業界の人たちとも
つきあいがあるようになりました。
特に株価に影響をあたえるようになると、
どこの大企業に行っても
下にもおかぬ鄭重な扱いを受けるようになりました。

私の訪問先には私の高校時代や大学時代の
クラスメイトが勤めている企業もあります。
大企業になると、30代では
まだ部長にもなっていませんから、
「僕の学校の友達が御社に勤めておりますよ」
と言っても、社長が名前さえ覚えていないのもあるし、
名前を覚えていても
社長の前に呼ばれて出てくる立場にはおりません。

自分が丁寧に扱われ、社長に玄関先まで送られて出て見ると、
一流企業の出世コースは
人も羨む生き方だとは言えない気がしてきます。
自分は出世コースを歩むことができなかったから
やむを得ず、表階段は避けて裏階段にまわったけれど、
表階段は人が押し合いへし合いしているのに対して、
裏階段は登る人が少ないので、
あっという間に最上階までたどりついてしまいます。
人生、表階段だけが階段ではないのだと
30代の私は痛感しました。
以来、「サラリーマン出門」(入門の反対)
「途中下車でも生きられる」といった
人生の回り道をすすめていますが、
やっぱり表階段が一番混んでいることに
変わりはありませんね。


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