第754回
億ションを買った人はアウトです

考えて見れば、銀行も難しい商売の一つです。
お客から預かったお金を貸すのですから
確実に回収できるのが第一の条件です。
ところが、こちらがお金を貸したい
返済能力のある人はお金を借りてくれないし、
反対にあやしげな企業ほどお金を借りたがります。
その区分がつかなければ、
銀行の支店長はつとまりません。

にも拘わらず、預金の洪水になって、
お金を貸す先を探すのが至上命令になると、
お金を借りたがらない取引先にまで
日参しなければなりません。
何とか口説いてお金を借りてもらったのはいいとしても、
手堅い会社は資金計画もちゃんとできていて
設備投資を無理にふやすことは先ずありません。
思わぬお金がころがりこんだら、
できることと言えば不動産を買うか、株に投資をするか、
どちらにしても、投機に走るよりほかないことは
目に見えています。
ですから私は採算をこえて地価と株価が値上がりすると
予言したことがあります。

既にそのきざしは見えていました。
土地の値上がりがはじまると、
時価で土地を仕入れて新規にマンションを建てても、
いま売りに出ているマンションの売値の
倍になってしまうのです。
ですから私は売出中マンションの購入を人にすすめ、
自分も何軒か買いました。
ただ土地を買うのだけはいくら銀行にすすめられても、
手を出しませんでした。
新しく土地を買ってマンションを建てたとしても、
銀行から借りた元利の返済に足りないのです。
返済のできない投資はやらないというのが
私の鉄則ですから、
おかげで大きな怪我はしないですみました。

でもその頃、安いと思って買ったマンションでも
いまは元手以下に下がっていますから、
バブルの反動は大へんなものです。
お金を借りて高い時にマンションを買った人は
一人残らずひどい目にあっています。
特に中堅サラリーマンですすめられるままに
住宅ローンを組んで億ションを買った人は
アウトもいいところですね。


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邱永漢著
PHP研究所
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ISBN:4-569-62062-0

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2002年4月3日(水)

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