第799回
自動車の洪水が日本の道を拡げました

日本でマイカー・ブームが起る何年か前に
私は一足先にマイカーを手に入れることができました。
直木賞をもらったりして、1人前の作家として
新聞雑誌に連載物を書けるようになったので、
同年輩のサラリーマンの10倍くらいは
収入があるようになったからです。

当時の東京トヨペットの社長さんと知り合いだったので、
特別に割引してもらって1台100万円のトヨペットを
5万円負けてもらいました。
大学出の初任給が1万円くらいでしたから、
1台手に入れるのに100ヶ月分くらいのサラリーが
必要な時代でした。
そのトヨペットを運転して
晴海の埠頭まで自動車ショーを見に行ったところ、
晴海から銀座の4丁目まで
向うから若者たちが歩いてくるのが目につきました。
きっと運動会か何かあって、
電車に乗り切れなかった若者たちが歩いているのだろうと
私は思いました。

ところが、晴海について見ると、
それは自動車ショーを見に行った帰りの人が
電車の順番を待ち切れなくて
歩いているのだということがわかりました。

何しろ10年間貯金をしても
自動車1台が買えない時代のことです。
私ならどうせ手に入らないものなら、
見るだけでも癪だと思ってしまいます。
そんなことは一切考えずに
あこがれの新車を見に
わざわざ晴海まで行きも帰りも歩くのだから
「日本の若者はお金が貯まったら、
 車を買おうなんてそんな生やさしい情熱じゃない。
 お金がなくとも、何が何でも車を手に入れるんだ」
と私は受けとったのです。

この調子じゃ日本は必らずマイカー・ブームになる。
私の友人で科学技術コンサルタントをしている人は
日本の自動車産業の将来に対して
悲観的な見方をしていました。
先ず日本の自動車生産技術があまりにも遅れている。
生産ロットが小さすぎて国際競争ができない。
もう1つ道が悪すぎて
自動車の走行に向いていないというのがその理由でした。
私は晴海の光景を見たので
「自動車の洪水が日本の道を拡げるだろう」と確信して、
専門家の見方に賛成するのをやめました。


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2002年5月18日(土)

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