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第2279回
ツバメの巣のスープとクレソンのスープ

次に自慢のできるスープに
玉燕羹と呼ばれるツバメの巣と油条のスープがあります。
ツバメの巣はベトナムやタイやインドネシアに棲む海燕が
海岸の洞窟の中に海草を鳥の唾で堅めてつくる子育ての巣です。
鳥の唾で堅めるので、
古来から肌を美しくする効果があると言われ、
西太后にも愛用されたと言いますが、
何せ高価なものですから、
スープに使われていると言ってもホンの申しわけ程度で、
私が注文した場合は
ふだんの倍くらいの分量を奮発してくれているようです。

しかし、玉燕羹のうまさは一番高価なツバメの巣の方にはなくて、
油炸粿(俗に油条)と呼ばれる油で揚げた麺棒を細かく切って
丼の底に並べた上から、熱いスープを
皆さんの見ている前でかける演出がかなりうけているようです。
味はちょっと複雑ですが、珍しいだけでなく大へんおいしいものです。
十人前で200元、半分の人数なら半値の100元ですから、
一人前が300円ということになります。
絶対に試してみるだけの値打ちがあります。

あと一つのスープは西洋菜湯です。
西洋菜とはクレソンのことですが、
広東人に言わせると、
マカオを自分たちの領土にしたポルトガル人の船乗りが
持ち込んできたものだそうです。
日本ではクレソンはデパートで売っています。
ナマで食べるものですが、広東人は必ずスープにします。
或る時、ポルトガル船が無人島に停泊した折りに
肺病を患っていた船乗りを置き去りにして出発してしまった。
しばらくたって、また同じ島に停泊したら、
死んだと思っていた船乗りが元気になって生きていたので、
わけをきいたらずっとクレソンを食べて健康を取り戻したと言う。
その話が伝わって
広東人はクレソンとピータンを煮て
スープにする料理に親しむようになったのだそうです。
我が家では唯一の広東風スープですが、
十人前も78元、五人前38元ですから一番安価な方に属します。
以上、五つを代わる代わる注文されたら、
忘れた頃に懐しいスープに再会できるのではないかと思います。


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