中国株、海外起業、海外投資、グルメ、ファッション、邱永漢の読めば読むほどトクするコラム

第3097回
「お金儲けの神様」になったきっかけ

小説を書いていた私がお金をテーマとした
金作家に早変わりしてしまったのは、
私が「中央公論」で何回か巻頭論文を書いて世間の評判になり、
中央公論社の嶋中鵬二社長と
親しくつきあうようになったことがきっかけです。

或る日、嶋中さんが突然、
多摩川べりにある私のあばら家に訪ねてきました。
当時、嶋中さんは婦人公論の編集長も兼任していたので、
私の目の前で刷りあがったばかりの
新しい婦人公論誌の目次をひらいて、
「邱さん、この目次を見てどこが足りないと思いますか?」
とせっかちな質問をしました。
私も遠慮をしない性ですから、
「どうして婦人雑誌は結婚初夜の話だとか、
出産・子供の育て方みたいな特集ばかりするのでしょうね。
私の見るところでは、女の人が一番関心を持っているのは
本当はお金だと思いますが……。
誰かにお金の話でも書いてもらったらどうですか?」
「それだ」と嶋中さんは膝を叩いてすかさず反応しました。

「でもお金のことが書ける作家とか
学者はなかなかいないんですよ。
邱さんが言い出しっぺですから
邱さんが書いてくださいよ」
とうとう私が婦人公論に「金銭読本」と題して
お金の連載を書く破目におちいってしまったのです。

一冊の本にするだけの分量になったので、
中央公論社から単行本として出版したところ、
何と立ちどころに再版また再版と
版を重ねることになってしまいました。
一生懸命小説を書いてもなかなか
再版の声がかからないのに、
全くシロウトの私が書いても
お金の話だと皆が関心を持ってくれるのです。
だから調子に乗って私が素早く転業したわけではありません。
ちょうど日本が所得倍増論の時代にさしかかっていて、
豊かになることとそのために必要なお金に
皆が関心を持ちはじめた時にぶっつかっただけのことです。
お金の歴史は人間の歴史と共に長いのに
お金は学問の対象にもならなかったし、
文筆業者の関心の的にもならなかったのです。
そのお金にからみつかれて、
とうとうからかい半分に「お金儲けの神様」を
押し付けられてしまっただけのことです。


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2008年9月1日(月)

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