中国株、海外起業、海外投資、グルメ、ファッション、邱永漢の読めば読むほどトクするコラム

第3858回
生き残れる事業と駄目になる事業の区別

或る時、つっかけを穿いた中年の小母さんが相談に見えました。
入ってくるなり、
「本当はうちの父ちゃんが来る予定だったけど、
急に用事ができたので、
お前が代わりに先生の所に行ってきいて来いと言われてきたのです」
と、弁解しながら私の部屋に入ってきました。

何の相談かときくと、
「店を2軒持った八百屋です。
そのうちの1軒を壊してビルを建てたいけれど、
税務署対策はどうしたらいいでしょうか」という話です。
「どんなビルを建てるのですか」ときいたら、
「5階建で建築費に6千万円ほどかかります」と言います。
「で、建築費はどうするのですか」とききかえしたら、
「お金はあるんだけれど、税務署対策をどうしたらいいでしょうか。
また今のご時世でビルを建てて大丈夫ですか」、
ということでした。
そうなると、これは税理士の先生の仕事になりますが、
何しろ40年も前のことですから、その頃としては巨額のお金です。
話は別になりますが
100人も人を使っている印刷工場をやっている人には
そんな大金はありません。
それに比べると、つっかけ穿いた八百屋の夫婦のところには
ちゃんと大金がころがりこんでくるのです。

現に私のところに相談に見えた東大出の印刷工場の社長さんは
工場も自分の会社の所有だったし、
取引先も一流なのに、仕事をとるのが難しい上に設備が老朽化して
採算を合わせるのに四苦八苦していました。
その上、人手不足と賃上げに追われて、
従業員を引きとめるために毎日、夕方になると
社長が一升瓶を何本も買って来て、
職工さんたちのご機嫌伺いをやらないと
やって行けないと言うことでした。
しかも収入はほとんどが手形なので、
銀行にも日参しなければ月給も払えない、
これからどうしたものでしょうかという相談です。

私はこんな仕事は将来といえども見込みがないから
足元の明るいうちに土地も処分して
会社を清算してしまったらどうですかと提案しましたが、
そういう人に限って手遅れになるまで先延ばしにして、
にっちもさっちも行かなくなってから
裁判所に駈け込むにきまっています。
一つの仕事しか見ていない人に、この区別はできませんが、
私は毎日、違った人にあって違う相談を受けるのです。


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2010年10月2日(土)

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