中国株、海外起業、海外投資、グルメ、ファッション、邱永漢の読めば読むほどトクするコラム

第4098回
財産より仕事の選び方の方が大切

自分の一生に大きな影響をあたえる財産をどうするかは、
もちろん、大切なことですが、
もっと大切なことは現に今、
やっている仕事をどうするかということです。

財産は長期にわたる判断が必要ですが、
仕事は目先の判断が必要です。
立派な会社に就職して社内での立身出世に賭ける人は、
社内における対処の工夫をすれば間に合いますが、
私のように定職を持たず、
いつ干上がるかわからない流れ者にとっては、
目先が次々と変わります。
ペニシリンやサッカリンを日本に運ぶような仕事は
日本で品不足を起している間は小金を稼がせてくれましたが、
そんなに長く続くとも思えません。
幸、自分の住む家と家計を維持して行けるだけの
家賃を稼げる身分になったので、
私は自分を仕事を変える必要を感ずるようになりました。

その時、私は3つの案を立てました。
一つ目は日本で貝ボタンの需要がふえて
その原料になる高瀬貝の産地であるボルネオか、
セレベスに行って漁業かコーヒー栽培に従事する。
そのために必要な100トンくらいの木造船を買うくらいの資金は
家を売れば手元にある。
二つ目は香港の新界(ニュー・テリトリーズ)が
これから開発されると思うから、
そこへ土地を買って農場をつくり、パパイアを植えて
牛肉を柔かくするパパインの製造をする。

そして、最後に残されたのが
昔、勉強をした日本に戻って小説家になり、
筆一本で生きて行くことでした。
最終的に文筆業を選んだのは
「オール読物」の新人杯にはじめて応募した私の
「龍福物語」(のちに”華僑”と改題)が
9百何十篇あった応募原稿の中で最後の5篇に残り、
この時は次点になって賞を逸しましたが、
もしかして自分に才能があるんじゃないかという
自信を持ったからです。
そう思うと、矢も楯もたまらなくなり妻と娘を連れて東京に戻り、
2年後に直木賞をもらうことができました。
そうした選択が私の一生を大きく変えましたが、
同時にほかのプロ作家と違う生き方を選ぶことにもなったのです。


←前回記事へ

2011年5月30日(月)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ