元週刊ポスト編集長・関根進さんの
読んだら生きる勇気がわいてくる「健康患者学」のすすめ

第553回
倉本四郎さんの遺稿小説が出ました

「命のバトンタッチ」――
親から子へ、友人から友人へ、
病気そして死という場面は、
長年連れ添ってきた相手であればあるほど、
遺された者に
やりきれない無念さと悲しみをもたらします。

しかし、命とは、生死とは、
これほどミステリアスなものはありません。
どんな秀逸な推理小説もかなわない、
荘重なドラマを垣間見せてくれるからです。

前回、書きましたように、
わが老母は88歳でベッドの上で、
不肖の息子に「生から死」へ移る瞬間のさまを
存分に見せて、スーッとおだやかに旅立ちました。
まるで「死を恐がることはない」
「命とは永遠に繋げがっていくものですよ」と、
諭すような死に顔でしなやかに旅立ちました。

一人一人の命が大自然、大宇宙の生命の場に繋がっている――
ともすれば普段の喧騒のなかで忘れてしまう、
命の大切さ、命の連続性、命の共有性、
そうしたことを伝え残すために
一人一人の肉体の消滅があるのではないか?
神はそう人間を創造されたのではないか?
そう考えさせられた一瞬でした。
「命のバトンタッチ」とは、
次に生きる者に勇気をもたらす知恵ではないでしょうか?

そして、僕に命のバトンを渡した、
もうひとりの忘れ得ぬ親友――
作家の倉本四郎さんが亡くなってから、ちょうど半年、
こんどは遺稿となった「招待」(講談社)という
幽玄冥境体とでもいうべき
ユニークな文体の小説が出版されました。

設定は、義父である老医師と主人公である私が、
いとも軽々と「死線」を乗り越えて、
コチラの世界からアチラの世界へ、
アチラの世界からコチラの世界へ、
陽気に行ったり来たり。
まさに食道ガンに襲われても2年間、
たえず楽しさを失わずに過ごしていた
倉本さんならではの
意識の世界を存分に見せてくれる傑作です。
作家の三木卓さんがこの本の帯で激賛しています。
「今かれは、ワタシドンガホウで家族と陽気な酒宴を開いている」と。
ちなみにワタシドンガホウとは、
死線を越えた倉本さんの描く“心の桃源郷”であり、
残された僕たちへの「命のメッセージ」なのです。
表紙の装丁には円山応挙の「百蝶図」が使われ、
まさに幽玄なる桃源郷で、
いま倉本さん楽しげに酒宴を開いているに違いありません。
ぜひ、小説好きの方は読んで見てください。


←前回記事へ 2004年3月2日(火) 次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ