「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第14回
生玉子すきずき

日本経済新聞のスポーツ欄の
野球解説者・豊田泰光さんのコラムを愛読している。
機知・薀蓄に富み、球界のご意見番としての面目躍如。

先日も若い選手の食の細さを嘆いておられた。
ヘンな時間の間食と夜更けのラーメンばかりを
食べていてはプレーヤーとして大成しないというハナシ。
その点、昔の一流選手はよく食べたという。
豊田さんが現役時代に目撃した先輩の大下弘さんの
食いっぷりはスゴかったらしい。
面白いのがその大下さんの玉子かけごはん。
まず生玉子を1つ割り、そこに2つめの玉子の黄身だけを
加えるスタイル。黄身が2個ぶん、白身は1個ぶん。
以来ずっとマネをされてるそうだ。

黄身が2個に白身が1個。試してみようと思わないのは
小学生のとある時期から玉子かけごはんを
まったく受け付けなくなったから。
他人が食べているのを見ているだけで
ウッとこみ上げてしまうほどに重症。
それでもフシギなことに、すき焼きのときの生玉子は
一向に気にならないどころか、むしろ好きなくらい、
割下のせいで玉子の味が濃くなると、
即座に新しいのを割りほぐす。

ところがある日をさかいに突然、
玉子かけごはんを食べられるようになった。
しかもその日は美味しくいただけて、食後感もさわやか。
その日からしょっちゅうではないが、平気で食べている。
いつ食べるのかというと、朝ではなく深夜に。
どこで食べるのかというと、自宅ではなくお店で。

神田神保町の交差点から徒歩1〜2分。
ホテル・ヴィラ・フォンテーヌの真ん前の「やまじょう」。
心根の優しい母娘が切り盛りする
関東風おばんざいがウリの小さな食事処は
何を食べても美味しく、不足がちな野菜もたっぷり補える。
つい先日も、母の手になるするめいかのゴロ煮が
一流の板前も真っ青の出来映えで、いかわたの魅力全開。
オマケに日本酒・焼酎・ワインの品揃えも心憎いばかり。

玉子かけごはんはこの店でしか食べない。
娘のオリジナルだが、世間一般のものとはまったく異なり、
溶いた玉子に削り節と出汁醤油を加えてシェイクし、
そこにごはんを混ぜ込み、再びシェイクして出来上がり。
ごはんに玉子をかけるのではなく、
玉子にごはんを落とすのがミソ。
ちょっと見は光輝く玉子の冷製リゾットのようだ。
自家製の浅漬けと一緒に味わえば、
「食べる歓び」を心から実感する。


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