「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第16回
オペラのあとで 乾杯を

歌姫マリア・カラス。
20世紀の生んだもっとも偉大な歌手。
波乱万丈、短くも劇的な人生をおくったが、
歌手生命はそれより早くして、すでに絶たれていた。
一説にはベッリーニのベルカント・オペラ「ノルマ」の
歌いすぎが声を破壊したとも言われている。
その歌劇「ノルマ」の有名なアリア、
「カスタ・ディーヴァ(清らかな女神)」は
誰しも1度は耳にしたことがおありだろう。
映画「マディソン郡の橋」で
メリル・ストリープ扮するフランチェスカが
家族の朝食を作りながら聞いていた
ラジオから流れるあの曲だ。

「ノルマ」は非常に上演回数の少ないオペラ。
タイトルロールのノルマ役には絶対的な
ソプラノ・ドラマティコが求められるし、
恋敵役のアダルジーザにも歌唱力を伴った
力強いメゾソプラノが必要不可欠だからだ。

6月末、初めて「ノルマ」を観る機会を得た。
本場シチリアはカターニアから来日した
ベッリーニ大劇場の公演が東京文化会館で開かれた。
このオペラのシンフォニア(序曲)が大好き。
弦楽奏によるサビの部分で鳥肌が立つのは毎度のことだ。
指揮者パッレスキがいきなり飛ばしに飛ばすので
観ている方はハラハラするが、それも杞憂にすぎず、
最後までドラマチックにタクトを振り切った。
ノルマのテオドッシュウ、アダルジーザのパラチオス、
ともに相譲らぬすばらしいデキ。
でもその夜のMVPは二股男ポリオーネ役のテノール、
カルロ・ヴェントレだったことは疑いようがない。

余韻にひたりながら、予約を入れておいた
「ブラッスリー・レカン」へ。
時計はすでに10時を回っている。
銀座の本家「レカン」は好きな店ながら、同じ銀座の
姉妹店「ロティスリー・レカン」には不満を残す身うえ、
正直期待はしていなかった。TPOを優先しての選択だ。

シャンパーニュで乾杯と決めたいところだが、
ノドはカラカラ、ハラはペコペコでは、
とても気取ってなどいられない。
迷わずアサヒのスーパードライ。
プッファ〜ッ!たまりませんなコイツは!
ブルゴーニュのサヴィニー・レ・ボーヌを抜いてもらい、
田舎風パテ・エスカルゴ・トリッパ煮込み・小海老ソテー・
ブイヤベース、次から次へと平らげてゆく。
そして最後に今宵のMVP(Most Valuable Plate)の登場。
濃いピンクも色鮮やかな仔羊背肉のグリエだ。
フシギなくらいに柔らかく、ジューシーで旨みもタップリ。
本店の仔羊パイ包み焼きマリア・カラス風ほどの
絢爛さはなくとも、夜更けの上野で出会える逸品に
思わず叫んでいた、ブラヴォー!と。


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