「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第17回
宇都宮で ウツになり

ある日曜日の朝。ふとどこかに出かけたくなった。
荷物など必要ない。パンツとソックスがあればいい。
あてもなく、家を出る。

秋葉原で山手線に乗り換え、とりあえず
上野駅構内のブックストアへ。
東京近郊の旅行ガイドはあまり並んでいない。
まっ、いいか、と見上げると
電光掲示板には、宇都宮行き列車の発車時刻が、、、
無意識に乗り込んだ。路線は東北本線らしい。
車内アナウンスで、所要時間は100分と知った。

昼前に着き、改札を出て再びブックストアに直行。
街のグルメガイド数冊に目を通して出発すると
街路樹のマロニエが美しい。意外なお出迎えにニッコリだ。
花のピンクと葉の緑、色彩と形状のコントラストが
地方都市とは思えぬエレガントなたたずまいを見せている。
マロニエの和名はとちのき。その名の通り、栃木県の県木。
学生時代、お茶の水のアテネ・フランセに通っていた頃。
目の前のとちのき通りに「マロニエ」なる喫茶店ありき。
こみ上げる懐かしさにチョッピリ心がうずくのもまた旅情。

宇都宮は言わずと知れた餃子タウン。
「華ざん」なる小さな店に落ち着いた。
隣りの「正嗣」という店は大盛況。しばし迷ったものの
行列するのはやはりイヤ、こちらを選ぶことにした。
キリン生中に殻付きピーナッツが付いてくる。
焼き餃子と、枸杞の実入りのラブリー餃子を注文。
見かけも味も何の変哲もない平凡な餃子。
ラブリー餃子など、作り手の意図が皆目判らん。
「名物にうまいものなし」――けだし名言とあらためて思う。

ブラブラ歩くうち、奇妙な外観の「金鮨」の店先に到着。
各種ガイドから判断して、真っ当な印象を受けた鮨店だ。
思い切ってのれんをくぐり、本わさびの有無を訊ねると
「有ります」というので、即刻その晩の予約を入れる。

ホテルで一休みしての夕暮れ時。「金鮨」に取って返した。
ここもキリンの生中だ。宇都宮は横浜並みにキリン一辺倒。
真子がれいと平目、白身のペアでスタートするが、
どうにもこうにも調子が上がらない。
ひも付きの青柳とあわびは鮮度に問題ありときた。
わさび・おごのり・漬け生姜の脇役トリオだけはなんとか。
考えてみれば、海にまったく縁のない栃木県、
鮨屋に入るほうも入るほうじゃないか。
店主が強く推すので、渋々応じたのどぐろ(赤むつ)には
グサリとトドメを刺された。この匂いはイッちゃってますぜ。
のどぐろだけにノドにもグロテスクだ。
ダメージ大きく、オヤジギャグまで冴えなくなってくる。
自分の愚かさにあきれ果て、にわかウツに陥った宇都宮。
明日にはシッポを巻いて退散するとしよう。
マロニエの思い出だけを胸に抱いて。


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