「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第19回
本場富山の蛍いか

この暑いのに季節はずれの話題で恐縮。
桜咲き乱れる春の富山を訪れたときのこと。
旅の目的は桜にあらず、狙いは旬の蛍いかだ。
花より団子を地でいっている。
蛍いか漁見物ツアーが観光客の人気を集める中、
面倒くさがり屋につき、わざわざ出かける気にもなれず
口にできればそれだけで
モア・ザン・イナッフということだ。

それにしても富山市内の桜はすばらしい。
富山城址公園の松川べりがつとに有名で
小さな遊覧船に乗り込み、川というより堀をめぐる感じ。
その松川よりも、散策中にたまたま遭遇した
いたち川沿いの桜が見事だった。
灯りの点る行灯に浮かび上がった夜桜は
見るものを瞬時にして北国の旅愁に誘い込む。
隅田川墨堤ならまだしも
上野のお山で高歌放吟の狼藉に及びながらの花見など
良識ある人間の所業ではない。

名所旧跡にはあまり興味を持たない身、
夕食に、ここぞという店を探す時間はタップリある。
フロントでもらった地図を頼りに、勝手知らぬ街に出た。
地方色豊かな市内を4時間もほっつき歩いただろうか。
宿の全日空ホテルからほど近い桜木町に
「やつはし」というカウンター割烹を見つけた。
普段から旨いもの屋を探し歩いていると
自然に嗅覚が鍛えられ、店の外観を見ただけで
これは間違いあるまいと、ピンとくるものがある。
そんな匂いを嗅ぎ取って、すかさず入店。

スーパードライの生中をグイッとやるうちに
枝豆・ばい貝煮・揚げしんじょ、突き出しが運ばれた。
品書きに目を通せば、魚介を中心になかなかの品揃え。
日本海のずわい蟹のシーズンはそろそろ終わり、
この日も入荷ナシとのこと。
その代わり、お目当ての蛍いかはご在宅、
しかも生簀の中で活きているというではないか。
これを試さずにおらりょうか。
惜しむらくは旬を迎えてしまうと、生食は危ないそうで
生は、まだ蛍いかが深海に潜むハシリの時期の限定らしい。
深場では寄生虫の心配はないが、浅瀬に上がるとアウトと
目黒かむろ坂の居酒屋「太田屋」のオヤジが教えてくれた。

木桶にすくい取られて泳ぎ回る元気なヤツを
しゃぶしゃぶにするのだが、蛍いかは断末魔の抵抗を見せる。
つまんでやると、墨の代わりにピュッと水を吐く。
健気な水鉄砲に、こちらは袖を濡らしながらも
手際よく湯に沈め、半生程度で口に運べば、
プルルンと弾ける哀れな小いか、
舌に濃厚な旨みを残して、死出の旅立ち。


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