第20回
氷見の市場の昼ごはん
氷見でも満開の桜が迎えてくれた。
氷見の桜の名所は市内を流れる湊川沿い。
偶然にも年に1度の「まるまげ祭り」の当日に訪れた。
祭りの由来は芸妓衆が幸せな結婚を願って
人妻のシンボルの丸髷を結い上げ、千手観音菩薩に参詣し、
早く身請けされることを祈願したことから。
今では18歳以上の未婚女性を全国に募り、
先着の50名が行列に参加している。
見物していて、外人女性が多いのには虚を突かれた。
着物と髷の似合わないことはなはだしく、
まるで出来損ないの「蝶々夫人」だ。
この町もお目当ては祭りにあらず、
ズバリ!狙いは氷見魚市場だ。
氷見と言えば鰤、鰤と言えば氷見のブランドイメージが
すでに定着している。
駅からブラリブラリと海岸沿いを歩いて行った。
松本清張が「ゼロの焦点」で描いたところの
どんよりと曇った日本海のイメージとは裏腹に
陽光うららかにしてのどか。絶好の散歩日和り。
市場の2階に1軒の食堂があった。
店名は「海寶(かいほう)」。
1軒しかないから、市場関係者も観光客も呉越同舟。
一緒くたに食事をすることになる。
敵味方でもあるまいし、それはそれで結構なことだが、
提供される料理がまったく違うのが恨めしい。
観光客は4種類の定食のみ。
刺身・焼き魚・台船かぶす汁定食(各1050円)に
中船定食(刺身&焼き魚で1800円)。
ほかには酒肴の蛍いか酢の物(500円)だけ。
昼には極力アルコールを避けていても
旅の空の下では気がゆるむ。
スーパードライで蛍いかをやると、これが上デキ。
瞬間期待がふくらむが、良かったのはここまで、
あとは急速にしぼんでいった。
刺身(真鯛・中とろ・槍いか)も焼き魚(がんど鰤)も
わざわざ市場で食べるほどのレベルに達していない。
いかゲソのおろし合え、皮はぎのアラ汁など
脇役陣にも冴えが見られない。
それに引き換え、市場で働く人たちの昼ごはんは
うどんかラーメンに、おぼろ昆布で巻いたおにぎり。
断然そっちが旨そうに見えてしまって、始末に悪い。
ちなみに、がんど鰤というのはズングリとした小型の鰤。
食味はホンモノに到底敵わない。
高級な天然の鰤は大都市に出荷して、地元の人はがんど鰤。
なにやら自分で作った米を年貢米に取られ、
雑穀でガマンを余儀なくされる
江戸時代の農民みたいと言ったら、叱られちゃうか。
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