「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第26回
蜘蛛の巣張って 獲物を待ち伏せ

日本橋は三越前のそば処「手打蕎麦むとう」。
前著「J.C.オカザワの下町を食べる」では
いろいろと厳しいことを書かせてもらった。

「浅草」・「銀座」・「下町」と続いた「食べる」シリーズは
まずそのエリアの「名店百選」、あるいは「二百選」を選出。
ほかに「選にあと一歩の優良店」、「選にもれた有名店」、
「こんなときにはこの一軒」と各店を仕分けして
それぞれに批評したものだが、
この「むとう」の位置付けは「選にあと一歩の優良店」。

初回の訪問時、そばとつゆには敬意を表した。
問題はかなり高めのプライス設定とニセわさび。
そばにデリカシーを感じたので、お運びの娘さんに
「しそ切り・ゆず切りみたいな変わりそばはないの?」
と訊ねると、1度奥へ消えた彼女が戻って
「社長のポリシーでは、そういうのは邪道だそうです」
これには二の句が継げなかった。
ニセのわさびを使いながらの高価格、
挙句の果てにこの物言い、それはないぜよ、社長さん!

鴨南蛮など、わさび不要の種ものは感心するほどに秀逸。
でもやはり基本のもりを注文するのに
躊躇を余儀なくされてるうちは、高い評価は下せない。
貧弱な酒肴の品揃えも気に染まず、
オフィスのそばにありながら、2年近くも近づかなかった。

7月下旬のある雨の午後。
久々に暖簾をくぐった。店内に客は誰もおらず、
エアコンのスイッチをあわてて入れてくれたが、
蒸し暑さが体にまとわりつく。これでは鴨南蛮はムリ。
つゆの熱い鴨せいろにも食指は動かない。
品書きに目を落として、選んだのは1300円のぶっかけ。
ふ〜ん、相変わらずいい値段取ってくれるじゃないの。
5分後に登場したそのぶっかけを彩るのは
花がつお・揚げ玉・千切り大根・針海苔。
なじみの顔ぶれながら、大根は千切りよりもおろしだろう。

ふと目に留まったのは小皿の上の緑のわさび。
もしやと思ってひと舐めすると、まぎれもない本わさびだ。
「やっと心を入れ替えてくれなすったか!」
社長、あんたもそれほどの極悪人じゃなかったようだネ。
これなら佐渡に送るのだけは勘弁するわ。

ただしクリアしなければならない問題が1つ残っている。
清楚な店先はいかにも美味しいおそば屋さん。
しかし最低限度、店頭に品書きの提示は必要だろう。
界隈では群を抜く高額店は、もり・かけでも各1000円。
鴨南蛮が1600円で、天せいろは1900円。
知らずに入り、血の気を失ったお父さんも少なくなかろう。
なにやら蜘蛛の巣張って、獲物の待ち伏せしてるみたい。
こいつはフェアじゃありやせんぜ、社長さん!


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