「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第28回
カレー版 灯台もと暗し

10年余り滞在したニューヨークから
帰国して早や9年。ずっと柳橋に住んでいる。
「♪ 柳橋から 小舟を急がせ 
舟はゆらゆら 波まかせ ♪」の
あの柳橋である。
隆盛を誇ったこの花街もサビれにサビれ果てた。
ときおり屋形船から上がる芸者さんの一行に
出くわすこともあるにはあるが、それもごくまれのこと。

本当は浅草に住みたかった。
それも江戸前鮨の名店「弁天山美家古寿司」が
鮨の出前を運んでくれる圏内に。
帰国直後にずいぶん探し求めたものだが、
物件があまりにも少なく、日本橋のオフィスと浅草の
ちょうど中間点にあたる柳橋を選んだワケだ。
最寄り駅は浅草橋。日本人形を商う店が軒を連ねている。
会社勤めの人波が途絶える週末になると
人間の数より、人形の数のほうが多くなる不気味な街だ。

駅前の総武線の高架下に
カレーとコーヒーの店「ゴア」がある。
この界隈は成瀬巳喜男監督の名作「流れる」で
克明に映し撮られた一角なのだが、
半世紀前とほとんど変わらぬ面影を残しているのが素敵。

いまだ梅雨が明けやらぬ7月下旬の暑い日。
無性にカレーライスが食べたくなって、
ふとこの店のことを思い出した。入ったことはない。
存在だけが記憶の片隅に残っていただけのこと。
小さな喫茶店風の店内に足を踏み入れると
「水とスプーンはセルフサービスでお願いします」とある。
メニューボードには、ポークカレー(500円)、
ビーフカレー(550円)、シーフードカレー(600円)、
チキンカレー(650円)などが並んでいる。
トッピングもコロッケ・唐揚げ・メンチカツといろいろ。
ほうれん草とベーコンの上に半熟玉子を乗っけた
巣ごもり玉子なんて、ポパイが喜びそうなものもある。

ポークカレーを食べてみてビックリ。
この値段でカレーソースがポット入り。
炊き立てのライスは好みの硬さでツヤツヤと輝き、
豚の小間切れがタップリ入った
やや辛口のソースがこれまた好みの味付け。
卓上には花らっきょうと2種類の福神漬け。
オバちゃんが1人きりで切り盛りするこの店を
すっかり気に入ってしまい、1日空けてウラを返せば、
チキンカレーもちょいと甘口ながらケッコウだった。
そうと知っていたら、9年間も放っておかなかった佳店。
寅さんのセリフじゃないが「灯台の根元は→暗いヨ!」

書き忘れたが、柳橋のマンションに入居して間もなく
「弁天山」のつけ台で五代目に経緯を説明すると、彼曰く
「エッ? 出前はとっくにヤメちゃってるけど、、、」
ハァ〜ッ?アホくさくてヤッてられんわ。


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