「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第44回
とんかつは ラードの匂い

いろいろなとんかつを食べてきた。
気に入りのとんかつ屋をつれづれに披露すると
蔵前「すぎ田」・浅草「ゆたか」・銀座「とん喜(七が3ツ)」
有楽町「繁」・高田馬場「とん太」・巣鴨「とん平」
自由が丘「丸栄」・成城「椿」と枚挙にいとまなく、
変わったところでは、深川「家庭」・椎名町「おさむ」
それぞれに好きだ。
洋食屋のカツレツならば、銀座の「みかわや」「煉瓦亭」
浅草の「グリル・グランド」「ニュー王将」あたり。
古くから洋食になじんでいる街にこそ、名店が散在する。

食べるのはもっぱらロースカツ。
ただし、とんかつ専門店の分厚く高価なのは好まない。
あれは量的緩和をお願いしたいほどのもの。
ランチタイムのサービス品で、一回り小さめのほうが
お腹にも負担がかからず、後口もよろしい。

揚げ油では、ラードが好み。逆に胡麻油には違和感を覚える。
胡麻はやはり江戸前天ぷらだろう。
街を散歩していても、肉屋の店先から漂う
ラードの匂いにはつい足をとめてしまう。
学校帰りにコロッケやメンチを買い食いした
少年時代の思い出が、熱いラードにはこめられている。

神田駅東口に近い「三新」
しっかりした揚げ切りはラードのなせるワザ。
目黒の「とんき」に匹敵するほどの色黒さに
たじろぐ客がいないでもないが、
時にはこういうとんかつも男っぽくていい。
そのせいか、女性客の姿はあまり見かけることがない。

メニューは定食が3種類のみ。
ロースカツ(850円)・上ロースカツ(1000円)・
特上ヒレカツ(1200円)とあり、
店内に「三新の目玉は上ロースカツです」の貼り紙が。
以前は、上ロースが断トツの人気を誇ったものだが、
久々に訪れてみて、並ロースの注文が多いのは意外。
景気も回復し、株価も落ち着きを取り戻しているのに
これは一体どうしたことだろう。
経済実態が庶民の生活に反映されるまでには
かなりのタイムラグが生ずるのだろうか。

見覚えのある上ロースカツは相変わらずの立派な姿。
たっぷりの練り辛子とともに、生醤油で2切れ、
とんかつソースで4切れ。揚げたての香ばしさが命だ。
この日はごはんにつややかさがまったくなく、不満。
味噌汁を見つめ直して、ハッと気が付いた。
ずっと貝割れ大根だと思っていた味噌汁の実が
よくよく見ればなんと摘み菜、どうりで辛みがないワケだ。
摘まみ菜なんて、いつ以来だろう。しばらく口にしていない。
「♪七色畑に妹の 摘まみ菜つむ手が可愛いよ♪」
突然、唱歌「緑のそよ風」の一節が頭の中をそよぐのだった。


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