「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第54回
岡持ちは 並木通りの 風物詩

銀座で一番美しいストリートは並木通り。
南北に走っているので、ニューヨークにならえば
アヴェニューということになる。
並木通りというくらいだから
街路樹がなければサマにならない。
その街路樹が何の木かは、あまり知られていないが、
シナノキというハート形の葉を持つ落葉樹だ。
長野市の「市の木」でもあり、
漢字を当てれば、信濃木なのだろうか。
リンデン(西洋シナノキ)の仲間で
こちらのほうは菩提樹として知られている。

この並木通りの7丁目に
「味彩」という小さなラーメン店がある。
「何だ、いきなり街路樹からラーメン屋かよ!」――
まぁまぁ、そうおっしゃらずに、お読みくだされ。
実はこの「味彩」、クラブのメッカの西銀座にあって
ちったぁ、名の知られたお店屋さんなのである。
1967年創業と、それなりの歴史を銀座に刻んでいる。
最近出版された、著名な料理人や評論家の方々の
合作によるガイドブックでは
道場六三郎氏推薦の店として紹介されている。
道場御大は昔ながらのシンプルな
ラーメンがたいそうお気に入りの様子だった。

クラブがクローズして間もない午前0時半。
和服姿のおネエさんたちに混じって
そのラーメンをすすった。
ケレン味のない醤油スープに、中細のまっすぐ麺。
具はチャーシューとシナチクにほうれん草。
強く訴えてくるものはないが、どこか味のあるラーメン。
小腹が空いたときに格好の中華そば風ラーメン。
タンメンやニラソバもいいけれど、
やはり1杯600円のラーメンが一番だ。

驚くべきはランチタイムのセットメニュー。
くだんのラーメンに半炒飯か半中華丼、
それに餃子が3個付いて、たったの700円。
もはや銀座の値段ではない。

黄昏どきの灯ともし頃。
「味彩」から岡持ち片手のオジさんたちが
銀座の街に散ってゆく。
店には常時、出前要員が数名待機していて
注文の電話のベルも鳴りっぱなし。
中でも名物オヤジが1人いて
この人の歩きを眺めているだけで
並木通りにいることを実感できる。
出前帰りで岡持ちの中が空っぽのときも
あるいは岡持ちを持たずに手ブラのときも
長年、運び続けたせいか、常に右肩がガクンと
下がっている。この姿が何ともサマになっていて
並木通りの風物詩と言って、過言ではないほどだ。

 
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2006年9月14日(木)

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