「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第61回
ミルクは売らないミルクホール

蕎麦と鮟鱇、鳥鍋に甘味、数々の老舗が
今も変わらぬ姿を残す神田須田町。
奇跡的に戦災を免れた一帯はその昔、連雀町と称した。
須田町よりずっと趣きのある町名だったのだ。

その旧連雀町から靖国通りを渡った南側に神田多町がある。
1丁目がなく、2丁目しかないヘンな町だが、
そのメーンストリートにポツリとある
「サカエヤ・ミルクホール」は
近所の人たちに愛され続ける軽食堂。
すぐそばには神保町の有名な天ぷら屋「いもや」の支店、
鳥肉のミンチを揚げるメンチカツが人気の
鳥肉専門店「鳥正」、シングルモルトの品揃えが自慢の
バー「デュース」、それぞれに個性的な飲食店が並んでいる。

店先のガラスケースに
おにぎりといなり寿司を見とめると
昭和の頃の甘味処的な印象を受けるが、
食事メニューもしっかりしていて、昼メシどきなど
なかなかの混雑ぶりだ。一番人気はラーメン。
年配客に混じり、若いサラリーマンやOLの姿も見える。
さすがに若者はラーメンだけではものたりず、
小さめのカレーライスと組み合わせたセット、
あるいはタンメンに半ライスなんていう注文が目立つ。
いずれにしろ中華麺ををすする音が
この店のBGMの役割をはたしている。

ウスターソースを入れすぎたカレーには
魅力を感じられず、セットは1回試しただけ。
もっぱらラーメンに、鮭のおにぎりか
いなり寿司を1個お願いしている。
ラーメンは典型的な中華そば風。
細打ち、ほぼ真っ直ぐ、薄黄色の麺の量は多め。
スープはごくありふれた醤油味で、
一口目には化学調味料を感じさせる。
卓上の白胡椒を振って食べ進むと、
それもあまり気にならなくなり、どうにか許容範囲。
肩ロース・シナチク・小松菜の具も
昭和30年代とほとんど変わらないようだ。

メニューの価格設定が面白い。
ラーメン(550円)、カレーライス(650円)、
タンメン(750円)、かつ丼(850円)、
ラーメンとカレーのセット(950円)と
100円きざみに上昇してゆく。

都心の真ん中の千代田区に
こんなレトロな店が残存しているのだから、
神田という街はフトコロが深い。
ちなみにこの「サカエヤ」、ミルクホールとは名ばかりで、
ミルクは売らない町の食堂なのである。

 
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2006年9月25日(月)

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