「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第89回
「黒革の手帖」のあとの ハシゴ酒 (その3)

笑いの絶えない「正直ビヤホール」をあとに
3軒目は馬券売り場裏手にある「正ちゃん」。
大衆酒場がズラリと並ぶこの通りは
いわば、煮込みストリート。
中でも一、二を争う人気店がこの店だ。
店主の正ちゃんとは田原町にある
行きつけのバー「B」で、たびたび顔を合わせる間柄。

すでに4人ともホロ酔い状態を通り越している。
それでもまずは、名物の緑茶ハイを注文する。
なんとなくカラダに優しそう。
つまみは、牛煮込みと厚揚げ焼き。
そして気に入りの白滝煮だ。日ごろからコンニャク系は
なるべく食べるように心がけている。

道路に張り出した木製のテーブルに陣取り、
夜風に当たりながら、ジョッキを傾けていると
風とともにフワリと隣りに座った1人の外人客。
訊けばパリからやってきたカメラマンだという。
ビールばかりを飲んでいるパリジャンに
ホッピーの白をすすめ、
われわれもホッピーの黒に切り替えた。

最近のパリ事情など、しばし会話を交わす。
ひとしきりしてトイレに立った彼。
こちらは茶目っ気を出し、大事な商売道具のカメラを
ジャケットの下に隠してしまったのだが、
戻ってきた奴さん、一向に気付いてくれない。
やっとこさ、カメラの不在を認識し、
「アレッ、カメラがない」とひとことつぶやく。
当方、待ってましたとばかり、
「今、ヘンなのがいたから、持ってっちゃったのかも」
これがアメリカ人なら、血相変えて
「オー・マイ・ゴッド!」とパニックになるところ。
そこはさすがにフランス人、文化と伝統の底力か
「リアリィ?」と、拍子抜けするほど落ち着いた反応。
これには一同感心することしきりであった。
悪ふざけも不発に終わり、浅草の夜はなおも更けてゆく。

ムッシュウの背中を見送りながら
ソロソロわれわれもと、席を立つ。
仲見世を横切り、かんのん通りに差し掛かると
いまだ居酒屋「志ぶや」の灯りが点っている。
誰からともなく「もう1軒、行っとく?」
明日は平日だというのに雁首並べて、こりずに入店。
折りよく空いた小上がりに上がり込んだ。

仕上げはキリンラガーの大瓶。
隅田川の向こう岸にはアサヒの本社が
そびえているのに、この店は大胆にもキリン一筋。
小肌酢・うるめ干し・冷奴・焼き鳥を
1人前ずつ頼み、みんなで取り分ける。
午前11時に「黒革の手帖」で始まった一日が
ようやくお開きになったのは午後11時。
それほどの疲れも見せず、それぞれに片手を挙げ、
シャッターの下りた「神谷バー」前にて解散。

 
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2006年11月2日(木)

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