「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第90回
「乱歩」は怪しい喫茶店

ある晴れた水曜日の昼どき、千駄木の団子坂下にいた。
目当ては街角の典型的な中華料理店「砺波」。
つい最近、ふらりと立ち寄ったおり、
小さなドンブリで出されたラーメンに
昭和30年代特有の匂いをかぎ取って
すっかりうれしくなってしまったのだ。
スープに化学調味料を感じるものの
中細ちぢれのしなやかな麺は大好きなタイプ。
そのとき、近隣の常連さんが
こぞって注文していたタンメンを
次回こそはと、心に決めていた。

不忍通りから団子坂とは反対の
三崎(さんさき)坂に向かう。
千代紙の「いせ辰」、「菊見せんべい」の
前を通って到着したが、あいにくの定休日。
こんなこともあろうと、第二候補も選んである。
道路をはさんで向かい側の日本蕎麦屋「大島や」へ。
細打ちのせいろは粉々感を伴って
ツルッと舌の上をすべってゆく。
つゆは甘さ控えめ。薬味はさらしねぎと
抹茶アイスのように色鮮やかな粉わさび。
化調が入っていないぶん、ニセわさびよりはマシだが、
やはり使う気になれない。それならば卓上の七色を振る。
壁に「おそばやさんのカレーライス」の貼り紙が。
ひと皿300円で、小皿盛りは200円。小皿をお願いした。
何の変哲もないポークカレーは、やや酸味が勝っている。

再び三崎坂を上り、界隈では有名な喫茶店「乱歩」へ。
折り悪しく、店の前は水道管だか、ガス管だかの工事中。
何やら騒々しいと思ったら、エプロン姿の爺さんが
通行人を誘導する旗振り役のオバさんを怒鳴っている。
「 これじゃ誰も客が来ねぇじゃねぇかよ!
 営業妨害だろうが!」べらんめぇ調の言い回しは
何のことはない「乱歩」のオーナーだった。
気持ちは判るけど、オバさんに罪があるワケじゃなし、
平身低頭の姿が、ちと可哀想。

「誰も来ない」と、勝手に決めつけられると
入りにくいものだが、とりあえず入店。
取って返した爺さんも、心なしかキマリが悪そうだ。
普段コーヒーを飲まないので
喫茶店を利用することはまれ、この日もアイスティー。
店内は取りとめもなく散らかっていて
これでは「乱歩」ではなく「乱雑」だ。

念入りに見回すと、異様な光景が浮かび上がる。
人面木なる木柱が置かれているかと思えば、
いろいろな猫のスナップ写真に
トランペット片手のマイルス・デイヴィスのポスターも。
「大島や」でカレーライスを食べていなければ
ここでピラフかドライカレーという手もあったが、
とても食事をする気になれない雰囲気。
そのうち店主は窓際の陽だまりで、うたた寝を始めた。
怪人二十面相が現れそうな怪しい喫茶店でござった。

 
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2006年11月3日(金)

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