「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第141回
横浜たそがれ「雲龍」のねぎそば

関西の人間が神戸の街に憧憬を抱くように
関東の人間は横浜に同じ気持ちを持っている。
異国情緒あふれる港町はそぞろ歩くだけで楽しい。

まだ十代の頃、初めて外国に出たのも横浜からのソ連船。
数ヶ月ののち、再び横浜の港に着いたとき、
街に流れていたのは尾崎紀世彦の「また逢う日まで」と
五木ひろしの「よこはま たそがれ」。
巷を騒然とさせていたのが、大久保清の連続殺人事件だった。

ある日のたそがれどき、
中華街をブラついていて空腹感を覚えた。
週末のことで、軽いブランチのあとは
昼食を取っていなかったのだ。
その夜は港近くのバーをハシゴするのが
目的だったから、何か胃に収めておく必要もあった。

メインストリートを外れたところに
素朴に小さな中華料理店を発見。
中華独特のけばけばしさとは
無縁の佇まいが気に染まった。
「雲龍」という名の店はいかにも家庭的。
ちょっと見は昭和30年代を思わせる。

何かあっさりとした麺類でもと
葱油麺(ねぎそば)を注文した。
オーソドックスな細打ち麺に透明の醤油スープ。
量はかなり少なめなのがありがたい。
具は紅麹の赤い縁取りのチャーシューに
生姜を忍ばせたねぎの笹切り。
スープを一口すすると、化調は感じるものの許容範囲内。
想像した通りのケレン味のない汁そばだった。

観光客の姿なく、常連が中心の客層には
牛バラそば・もやし焼きそば・排骨麺あたりが売れスジ。
みな喜々として割り箸を上げ下げしている。
ともあれ、いい店を見つけたものだとほくそ笑んだ。

しばらくぶりに再訪。
気になっていた生馬炒麺(もやし焼きそば)をお願い。
此度はまともな昼食なので、餃子も一緒に。
豚肉ともやしに、他の野菜もたっぷりの
あんかけ焼きそばは葱油麺同様、シンプルな美味しさ。
餃子も中華街にありがちな
皮の厚いモコモコしたものではなく、しかもサッパリ味。
すっかり「雲龍」のファンになった。

調理場にはオバさんとお姐さん。
サービスもお姐さんが独りと
男性スタッフは見当たらない。
道理で何を食べても女性らしい優しい味だ。
けしてレベルが高いとは思えない中華街にあって
以来、横浜に来たときには再三訪れている。
前回は頼むつもりがうっかり忘れた
豚の網油使用の巻き揚げを、冷たいビールとともに
次回こそはと、楽しみにしている。

 
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2007年1月15日(月)

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