「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第148回
うれしい誤算の「石丸館」 (その2)

蟹好きにはありがたいアミューズのあとは
ムスリーヌが3つ浮かんだスープが運ばれた。
匂いだけでスープ・ド・ポワソンであることが判る。
ムスリーヌは魚介類のムースのこと。
フワッとした仕上がりは
おでん種のはんぺんよりもソフトなタッチ。
白身魚の香りが立ち上らないのでシェフに訊ねると
帆立の貝柱を使用しているとのこと。
道理でマイルドなわけだ。
サカナの出汁の効いたスープともども上デキであった。

お次の魚料理はウロコを残したままで
じっくり焼き上げた甘鯛のポワレ。
付け合せは薄紅の根元を残したままのほうれん草。
シェフは何でも残したままがお好きのようだ。
こんがりと火を通されているため、
ウロコ自体は気にならないが、この料理法は好まない。
甘鯛の身肉はホックリと美味しくいただける。
生理的にウロコがイヤなだけだ。でも平らげた。

続いての肉料理は骨付き仔羊のロティ。
ミディアムレア状態で色鮮やか。
素材の性質(タチ)も申し分ない。
脂身のこそげ落としもほどよく、
ボリューム的にも満足のいくもの。
この仔羊によってニュイ・サン・ジョルジュが
よりいっそう華やいだ。
付け合せは人参・そら豆・スナップえんどう。
余談ながら、俗に言うスナックえんどうは
何かの弾みで呼ばれ始めて定着したのだが
正しくはスナップえんどう。
英語ではシュガー・スナップ・ピーと言う。
砂糖ざやという呼称もこれに由来している。
しかし、もはやスナックえんどうも
間違いとは言えないくらいに蔓延した。

自慢のデセールは栗のガトー。
カスタードとメレンゲが添えられた
評判の逸品は期待通りの出来映え。
普段はパスするデセールを
エスプレッソと一緒に味わう。

シェフとマダムのご夫妻は
パリのシャンゼリゼ近くで30年も
「ジョルジック」というレストランを営まれた方々。
いわばパリ料理界における日本人経営者の草分け的存在。
人懐っこいシェフとクールなマダムの
対照的なコンビネーションが独特の雰囲気を生む。

若き日のアルバムを見せていただきながら
マダムと交わした談笑が楽しい。
「ジョルジック」を閉める前の数年間、
ちょうど1990年代半ばにあたるのだが、
その頃ニューヨークに在住していたボクは
毎年のようにパリで休暇を過ごしていた。
当時はミシュランの3つ星や2つ星ばかりを
狙い撃ちにしていたので
お二人の店にはついぞ伺う機会がなかった。
今振り返ると、それがとても残念。

「石丸館」をオープンして8年。
やっと東京の空気にも慣れてきたとおっしゃる。
失望どころか、ぜひ再訪したい1軒となり、
うれしい誤算を心から喜んでいる。

 
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2007年1月24日(水)

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