「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第167回
度肝を抜かれた カラスの再来

上野文化会館でドニゼッティ劇場の来日公演、
オペラ「アンナ・ボレーナ」を観る。
日本では滅多にかからぬ演目というより、
本邦2度目の公演だから、この機会を逃すと
いつまたお目にかかれるか、知れたものではない。
マリア・カラスがタイトルロールを歌った
古いCDを繰り返し聴いていたので
音楽はすでに耳になじんでいる。

取りとめもなく進行していた第1幕が
最後に来て劇的に盛り上がった。
主役のディミトラ・テオドッシュウの
響き渡る歌声に会場全体が目を覚ましたかのよう。
「ブラーヴァ!」の嵐がすさまじい。
テオドッシュウは典型的なソプラノ・ドラマティコ。
声質は異なるが、マリア・カラスを彷彿とさせる。
しかもテオドッシュウの魅力は
軽やかに繊細なソプラノ・レジェーロの
領域にも踏み込むことのできる、その二面性だ。
去年の夏の「ノルマ」もすばらしかったが、
今回はそれ以上のデキ。この人の恐ろしさを知った。
専門知識がないので、評価の基準はあいまいながら、
何をもって判断するのかというと
ただ単純に鳥肌の立ち具合。今回は実によく立っちゃった。
われながら、いい加減なものだと思う。

興奮冷めやらぬ観劇後、
その夜はどこの店にも予約を入れておらず、
ブラブラとアメ横方面へ歩き、
みちのく料理「ひがし北畔」の暖簾をくぐった。
月に1度、津軽三味線の演奏会を開くことでも
名を知られた民芸調の郷土料理店だ。

まずはサッポロの黒ラベル。
続いて薩摩の芋焼酎・島美人。
せっかくのみちのく料理だから
青森の銘酒・桃川あたりを飲みたいが、
飲みすぎて翌日に酔いを残したくはない。

いきなり出された突き出しにがっかり。
黒豆・なます・小肌粟漬けのトリオで来た。
1月も後半に入ったというのに
揃いも揃って、おせち料理の残りものでの
お出迎えとはあんまりだ。
しかも小肌の姿のデカいこと。
こういうのは小肌と言わずに巨肌と呼ぶ。
創業30年の老舗がこんなところで
馬脚を現すなんて、なんとも嘆かわしい。

はたはたの一夜干し、真鱈白子の天ぷら、
味噌仕立てのじゃっぱ汁は
それぞれにそれなり。
稲庭うどんのつゆに化学調味料を強く感じる。
うどんは当然のことに市販の乾麺だが、
おそらくつゆも出来合いのものだろう。

オペラの余韻に浸るのに
みちのく料理という選択は、やはり無謀であった。
それにしてもこの上野という街、
駅をはさんで東側は俗っぽく、西側はアカデミック。
まったく別の素顔を併せ持っている。
西がジキル博士なら、東はハイド氏さながらだ。

 
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2007年2月20日(火)

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