「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第182回
地獄の相場に 地獄の洋食

上海に端を発した株価の急落には痛い目にあった。
BRICs4ヶ国が火元となった暴落は始めての経験だ。
世界中の金余り現象に投資家が
みな油断していたから、たまったものではない。

まるで家族団らん、楽しい夕餉の最中に
いきなり放火されたようなものだ。
いやいや、欧米や日本のあわてぶりを見ると
夕飯どころではない、入浴中の放火ですな、これは。
素っ裸でいるときに、火を付けられたひにゃ
パニックに陥るのも当たり前。
いずれにしろ、相場というのは化け物だ。

3営業日続いた株価激落のあとの暗い日曜日。
枝振りのいい松でも探そうと、隅田川のほとりを歩む。
何でそんなもん探していたのかというと、
枝振りのいい松は首をくくるのに具合がいいからだ。
生憎、いや九死に一生というべきか、
墨堤に桜は生えても松などありゃしない、辛くも命拾い。

まっ、冗談はともかく痛手をこうむったからには
リハビリ兼ねての気分転換が必要不可欠。
ぶらぶらと墨東一帯の散策を楽しむ。
新東京タワーの建設予定地・押上から
大衆酒場のメッカ・曳舟、
永井荷風は「濹東綺譚」の舞台・玉の井、
カネボウ発祥の地・鐘ヶ淵と歩き続ける。

とっぷりと日も暮れた18時ちょうどに
墨堤通りの「レストラン リヨン」に到着。
今宵は飲み友だちのO会長とT子嬢の3人で
初めて訪れるフレンチ洋食の老舗にてディナー。
まずはオードヴル代わりの小皿料理を数品。
めごちのベニエは、いわゆるめごちの天ぷら。
タルタルソースが添えてある。
骨付き仔羊の香草風味はトマトチックな味付け。
このあたりまではよかった。
エスカルゴで雲行きが怪しくなってくる。
にんにくとパセリが不足気味では
真っ当なエスカルゴ・バターにはほど遠い。
しかも使い回すために、かたつむりの殻は穴だらけ。

メインが輪を掛けてひどかった。
大海老・帆立・白身魚で構成された
魚介のミックスフライはコロモがみな剥がれてしまう。
これはインパクトの薄いドミグラソースが
かかったビーフカツレツも同じこと。
オマケに剥がれやすいコロモがやけに分厚い。
ポークソテーも脂身がこれでもか!と付いている。
食べ進むうちにナイフとフォークを
放り出したくなってきた。
墨堤の洋食屋に地獄を見た思いがする。

赤ワインはモメサンのプラ・ドール’03年。
メルロー種の特徴が出た飲み口の
いいワインでよかったのだが、
フランスワインのみを置いていると
店主が豪語するわりには
ピノ・ノワールが1本もない。
このあたりも何だかなぁ。

こうして週明けの月曜日。
株価は先週にも増して、底なしに下げ続けている。
今の世の中、メシを食っても、相場を張っても、
真っ暗闇じゃあ、ござんせんか!

 
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2007年3月13日(火)

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