「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第186回
ソープ嬢と 天ざるを食べる (その1)

花の吉原仲之町、吉原のメインストリートを
初めて見たのは小学生の2年か、3年の頃。
ずいぶんマセたガキだなと
呆れないでいただきたい。
そんなところを小学生が歩いていたら
たちまち補導されてしまう。

種明かしは「花笠若衆」という東映映画。
大森海岸から南に延びる三原通りという
商店街の映画館でその映画を観たのだ。
もちろん京都撮影所のセットに過ぎなかろうが、
舞台となった吉原仲之町で、美空ひばりが歌に芝居に
大活躍するミュージカル仕立ての時代劇だった。

今となってはその吉原全域が
都内一の大ソープランド街に変身して
そっくりそのまま千束4丁目となり、
味気ないことこの上ない。
往時は、浅草新吉原江戸町・同揚屋町・同角町・
同京町と、いずれも小粋な名前を持つ
4つの町に区分けされていた。

花園通りからちょいと中へ入った吉原の南のはずれ、
旧京町2丁目の一郭に1軒のそば屋がポツンとある。
店先では信楽焼きのたぬきが徳利を下げてのお出迎えだ。
玄関の引き戸の擦りガラスには
店名の「梅月」の字が浮かび上がっている。
こんなところにこんな店が!という佇まいが実にいい。
発見したとき、即座に入店したくなった。

「梅月」では、もり系よりもかけ系がオススメ。
やや濃い目の熱いつゆがよいからだ。
海老天のほかに茄子天も入る天ぷらそばが人気。
ごはんがつややかな炊き上がりなので
どんぶりモノやおにぎりもイケる。
カツ・ルウ・ライスの三拍子が揃った
カツカレーは望外の出来映えだった。

場所柄、ソープ嬢が頻繁に利用している。
客層は近隣に住む常連の夫婦ものや
ソープランド関係者に限られるようだ。
ソープにはからっきし無縁のくせに
こんな場所まで足を踏み入れる物好きは
J.C.オカザワをおいて、ほかにはいない。

訪れるたび、相当の確立でソープ嬢を見かける。
彼女たちの注文を聞くともなしに聞いていると
どういうわけか、天ざるが断トツの一番人気。
暑い時期ならまだしも、冬場でもそれは変わらない。
同僚同士が連れ立って来店しても
お互いに会話より携帯電話の操作に
忙しい彼女たちにとって、少々ほったらかしにしても
天ぷらそばのようにはノビたり冷めたりしない
天ざるが食べやすいし、好都合なのだろう。

ソープ嬢に倣い、天ざるを食べてみようと、
暖簾をくぐったことがある。
店内にはやはり、いましたいました独りのお嬢。
年の頃なら25前後、ちょうどお肌の曲がり角。
案の定、目の前に天ざるを置いて
一口食べてはメールを一打ち、
一打ち打っては天ざるを一口。
彼女の一挙手一投足を
知らず知らずのうちに目が追っている。
あまりジロジロ見ていて視線が合ったりすると
こちらのほうがドギマギしてしまうから要注意だ。

             =つづく=

 
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2007年3月19日(月)

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