「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第228回
「赤線跡を歩く」を片手に (その2)

小田原駅に近い「中華料理 日栄楼」は
すでにレトロを超えて、もはやアンティック。
ビールを飲んでいるうちに運ばれたラーメンの
醤油の色濃いスープを一口すすると、
やはり煮干しの風味が勝っている。
化学調味料も許容範囲に収まっていて
懐かしさを覚える味と匂い。
中細ほぼまっすぐ色白の麺はちょっと柔らかく残念。

具のもも肉のチャーシューはかなり大きめ。
しっとりとした食感が歯に舌に快く、
豚肉本来の旨みを感させてくれるもの。
ラーメンには理想的なチャーシューだ。
いつの頃からか世間では肩ロースやバラ肉が
横行するようになり、それもトロトロに煮込まれた
出汁の抜け殻ばかりになってしまったのが嘆かわしい。

周りのテーブルでは炒飯と焼き餃子が人気。
神奈川県と言えばサンマーメンだが、
小田原あたりまで東海道を下ってくると
それほどポピュラーなものでもないらしく
注文する客とていない。

食後、なおも海の方向に向かって歩んでいくと
「だるま」なる大店が目の前に現れた。
順番を待つ客の群れが店先からあふれ返っている。
「赤線跡を歩く」には小田原在住の
小説家・川崎長太郎の作品にも登場する食事処とある。

中をのぞいてみて人気の理由がすぐに判った。
まさしく宮尾登美子の「鬼龍院花子の生涯」や
「陽暉楼」の世界が目の前に開けるのだった。
東京でこういうシーンを目にすることは不可能だ。
行列さえなければ、食事は無理としても
ビールの1本くらいは飲みながら
しばらく身を置いていたい空間なのである。

客たちの食事風景を眺めてみると、
料理が別段すばらしいというのでもない。
みなそれぞれに天丼か天ぷら定食、
あるいはにぎり寿司かちらし寿司を食べている。
メニューの守備範囲は広いとも思えない。
値段のほうも意外と庶民的で
すしが1050円、天丼は1000円、
定食は1370円よりなどとあった。

いずれにせよ、旨いまずいには
目をつぶってでも、訪れる価値は大いにある店だ。
再び小田原に来る機会に恵まれたら
そのときはぜひ立ち寄ることにしよう。
後ろ髪をひかれながら立ち去る。

市内には盛んに祭りの神輿が出ている。
通称かまぼこ通りの千路小路、川崎長太郎の生家跡、
以前は三業地だった宮小路の飲食店街と回ってゆく。
川崎の短編「鳳仙花」に出てくる
甘味処「三州屋」のモデルともなった
「三政屋」の菓子ケースをのぞいてみたりもした。
強風吹き荒れる日柄の悪い日のこと、
海辺に出てみる気にもなれず、駅へと向かった。

 
←前回記事へ

2007年5月16日(水)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ