「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第232回
中野駅前雑居ビルの江戸前鮨 (その1)

ここ3年ほどの間に中野の街を
訪れる機会がめっきりと減ってしまった。
というのも中野武蔵野ホールが閉館したせいだ。
東映の仁侠映画や日活のアクションものがウリの
客入りもまばらな小さな映画館だったが、
傍目にも赤字経営が明らかで
とても立ち行きそうには見えなかった。

武蔵野ホールで最後に観たのは
小林旭と浅丘ルリ子が競演した
「南国土佐をあとにして」だったと思う。
主題歌を唄ったペギー葉山も出演していた。
デビューして数年後の旭&ルリ子が若かった。

映画の帰りに立ち寄るのは
炉端焼きの「陸蒸気」やうなぎの「川二郎」、
そしてバー「BRICK」といったところ。
もっぱら映画館のある北口界隈の店を
利用することが多く、反対側の南口へは
ほとんど足を運ぶことがなかった。

その南口駅前にレベルの高い江戸前鮨店が
あると聞きつけ、予約の電話を入れた。
毎度のことだが、この際の確認事項はただ一点。
本わさびの有無のチェックにつきる。
銀座や六本木の鮨店ならほぼ100%間違いがないから
余計な心配はいらないけれど、都心を離れたら
どんなに評判の高い店でも念には念を入れておかねば。

「つかぬことをお伺いしますが、
 わさびは本わさびですよね?」――こう訊ねると
受話器の向こうの女将さんの明るい声が
「ハイ、もちろんです!」――キッパリと応えた。
そうなんですよ、もちろんなんですよ、
でもこのもちろんをもちろんとして
認識しない店が現状では多すぎるが嘆かわしい。
てなわけで総武・中央線に乗り、一夜出かけた。
いいシゴトに出会えそうな予感。

ところが目当ての「峯八」が入居していたのは
飲食店が集まる典型的な雑居ビルの地下。
中野駅からたかだか徒歩1分の至近距離は
便利この上ないものの、これにはいささか躊躇する。
真っ当な店かどうか、何やら心配になってきた。

待ち合わせた相方の姿はいまだなく、
取りあえずは地下にもぐって
店舗の品定めを試みても
外からは店内がよく見えない。
これは大きくはずしてしまうかも・・・

遅れてきた相方も雑居ビルには驚いた様子。
気を取り直して2人暖簾をくぐると
いきなり店主の先制パンチがお出迎え。
「オッ、わさびにこだわったお客さん?」
「そうです、私が変なおじさんですっ!」
そんなふうには応えなかったが、
うなずきながらつけ台に落ち着いた。
一見して親方は一筋縄ではいきそうもない
なかなかのクセ者とお見受けした。

         =つづく=

 
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2007年5月22日(火)

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