「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第233回
中野駅前雑居ビルの江戸前鮨 (その2)

中央線中野は南口、駅前の雑居ビル地下の
鮨店「峯八」のつけ台で
グラスに注がれたキリンラガーを飲み干した。
電話予約の際にわさびに念を押したためか
目の前の親方にこう訊かれた。
「わさびは湯ヶ島と御殿場ですけど・・・」
ふ〜む、2箇所の名産地のものを揃えていたとは!
長い人生でもこれは初めての経験で
予想した通りのしたたかさであった。
御殿場産をお願いする。

ご夫婦2人きりで営む小体な店に先客は
常連らしい男性が1人だけ。
静かに酒を飲むというより、鮨をつまんでいる。
おまかせでお願いする客がほとんどのようだが、
つまみもにぎりもお好みでお願いする。
それでもにぎりだけはおまかせだと言う。
3通りのおまかせにぎりがあって
8カン(7500円)、9カン(9000円)、
12カン(12000円)となっている。

これはどういうことかと言うと
とにかくにぎりを食べてほしいという親方の
メッセージがこめられているのである。
おまけに酔っ払いが嫌いなものだから
タチの悪い客につけ台に居座られ、
少々のつまみで大酒を飲まれては
経済的にも精神的にもたまったものではないのだ。
そんなわけで酒は1人3杯までで
あとはお断りというローカルルールも施行されている。
ビールでも燗酒でも3本、焼酎なら3杯、
あるいはその組み合わせでトータル3本(杯)までだ。

「郷に入れば郷に従え」のことわざ通り、
酒量制限もおまかせにぎりもここは素直に納得する。
おまかせにぎりと言っても多少の好みは
聞いてくれるというし、その程度の融通性はあった。

青森産の平目を薄めに切ってもらい、
上質な身肉のほどよい歯応えを味わいつつ
早くもビールを1本空けた。
麦焼酎の耶馬美人のロックに切り替える。
お次は岩塩を添えた佐島のたこの桜煮。
引越しのサカイではないが仕事キッチリ。
やはりこの親方、只者ではなかった。

初めて飲む耶馬美人もスッキリと香り高く、
マックス2杯しか飲めぬのだから
いつもより一口ずつ含む量が
無意識に少なくなっているのが我ながらセコい。
こうしてみると鮨屋で3杯こっきりはちと味気ない。
せめて5杯にしていただきたいものだ。
歌舞伎「籠釣瓶花街酔醒」の佐野のお大尽、
次郎左衛門ならずとも
「親方、そりゃあちとそでなかろうぜ」
と嘆きたくなるのが人情というもの。

宮城は閖上産の赤貝とそのひもで
1杯目の焼酎は飲み切り、お替わりをお願いする。
これがこの店では最後の酒になる。

         =つづく=

 
←前回記事へ

2007年5月23日(水)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ