「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第234回
中野駅前雑居ビルの江戸前鮨 (その3)

さすがに閖上の赤貝はその名声通りに
繊細な滋味・風味が際立っている。
ばか貝(青柳)・平貝・黒みる貝・北寄貝、
鮨屋の貝にもいろいろある中で、やはり王者は赤貝だ。
これに蒸しあわびと煮はまぐりを加えれば、
鮨屋の貝の御三家と相成る次第。

それにしても酔っ払い嫌いの「峯八」の親方が
勝手に決めてしまった3秒ルールならぬ3杯ルール、
そば屋・うなぎ屋・焼き鳥屋ならいざしらず、
様々なサカナたちが居並ぶ鮨屋にあっては
尻の座りの悪いことはなはだしい。

浅草に飲酒に当たってさまざまな規制を課す
「松風」なる酒亭があるのだが、
つい、この店を思い起こしてしまった。
余談ながらその「松風」も近々、
暖簾をたたむことがすでに決まっている。
また1つ、浅草の灯が消えてゆくのだ。

中野駅前の「峯八」にハナシを戻そう。
閖上の赤貝のあとにもう1度、真だこの桜煮。
足の先っちょを少々切ってもらった。
クルクル旋回しているこの部分が好き。
普段あまりたこを好んで注文しないのだが、
とても良いシゴトがなされた逸品は
銀座の「奈可久」、駒込の「ゆうひ寿司」を
想起させるほどのもの。

にぎりへ移行。
親方が初めににぎってきたのは平目昆布〆。
最初の1カンが平目の昆布〆だと
これには浅草の「弁天山美家古寿司」を思い出す。
それも今は亡き先代の四代目を。
くしくも軽い〆っぷりが「弁天山」によく似ている。

続いて大間の中とろ。大間のまぐろと言えば、
先刻の閖上の赤貝と並ぶ天下のブランドだ。
ほかにも、大原のあわび、小柴のしゃこ、野島の穴子、
松輪のさばあたりが東京の鮨屋の珍重する品物。
そうそう、にぎりの前の佐島のたこもその仲間だ。
さて中とろだが、これが天下一品。
テクスチャーのキメが細かく、脂のノリもほどよく、
いつもは赤身しか食べないのに
おまかせのおかげですばらしい中とろに
出会うことができた。

3番目は中とろと同じまぐろの赤身づけ。
目の前で漬け込む即席版は
煮きり醤油にドボンと漬けてしばらく置いたもの。
たった今食べたばかりの中とろが
あまりにも良かったために
赤身のほうはいささか分が悪い。
それでも水準は極めて高いものがある。

4番目は船橋の小肌。
こんなに近場では油臭くないものかと
心配はしたものの、それは杞憂に終わった。
なかなかの質の良さに得心したが、
惜しむらくは酢よりも塩が勝っている。
好みの問題ながら、もうちょいと塩を抑制して
酢の踏み込みを深めてほしい。

         =つづく=

 
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2007年5月24日(木)

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