「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第235回
中野駅前雑居ビルの江戸前鮨 (その4)

中野の「峯八」のことを書き始めたら
何やら筆が止まらなくなってきた。
それほどに、にぎる親方も彼ににぎられた鮨も
印象深かったということだ。
ただし、回りくどい言い方をすれば、
ここは鮨屋めぐりの上級者向け。
サカナ・鮨・人生、それぞれにそこそこの
場数を踏んでいないと
この店を誤解してしまうかもしれない。

にぎりは、平目昆布〆・中とろ・赤身づけ・
小肌と続き、5カン目は京都・宮津産の黒みる貝。
黒みる・白みるとあるうち、
この黒みるこそが本みる貝と呼ばれるもの。
サクサクッと歯ざわりが快適ながら
つい数週間前に、浅草の「高勢」で
食べたものほどのキレ味はなかった。

お次は松輪のさば。さばは当然〆さばだが、
小肌に比べて酢の塩梅が格段によろしい。
上に1枚かぶせた白板昆布が当意即妙のアクセント。
通称バッテラ昆布のこの昆布は
さばにはもうこれ以上望めないほどの出来すぎた女房役。
京都の立派な鯖寿司よりも
大阪の気軽なバッテラのほうが
好みに合っているのは、すべて白板昆布のなせる業。
すかさずお替わりといきたいところを
グッと我慢の大五郎。次へ進む。

江戸前の鮨屋に来たら、避けては通れぬ煮穴子は
驚いたことに蒲田の産。蒲田って何なんだ?
金沢八景の野島でなくとも羽田というならまだ判る。
羽田の西の蒲田に、川はあっても海はない。
呑川の河口付近で揚がったものか、
羽田沖で獲れたものを小船で呑川をさかのぼり、
京浜蒲田あたりで水揚げしたものか、よく判らぬ。
ふっくらタイプの煮穴子は好みでないが、
甘さ控えめの煮つめとのバランスはいい。
ここにも真っ当なシゴトが垣間見えた。

生海胆が海苔なしで登場。
いわゆる軍艦巻きにしない海胆と酢めしの真っ向勝負。
訊けば、玄界灘の壱岐産とのこと。
海水入りの瓶に入って空輸された赤うには
見たところばふん海胆ほどの色濃さはなく、
どちらかと言うと紫海胆に近い。しかし味は濃厚。
海胆に目の無い相方は元々丸い顔を
よりいっそう丸くして満面の笑みをもらしている。

巻きものはオーソドックスにかんぴょう巻き。
この店の特徴の1つ、赤酢を打った酢めしの個性が
かんぴょうの大地、焼き海苔の磯の香りと
三位一体となってもっとも際立った。
鉄火巻きではこうはいかなかったかもしれない。

最後に酢めし抜きの玉子焼きと
みつばを散らした平目の潮汁。
玉子焼きは芝海老のすり身入り。
すり身の入らぬ玉子では江戸前らしさが表れない。
出し巻きなんぞはそば屋か料理屋に任せておくがいい。
潮汁をすっきりと味わってのお勘定は
お二人様合わせて3万7千円也。
銀座だったら4万8千円が適正価格であったろう。

          =おわり=

 
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2007年5月25日(金)

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