「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第236回
血塗られたスパゲッティ

10日ほど前の日経新聞に興味深い記事を発見。
ブラジルのサンパウロから帰国して
現在は群馬県大泉町でブラジル野菜を
栽培している林治男さんが書かれているのだが、
ブラジル人は二大国民食のシュラスコと
フェイジョアーダを食べるときに
大量の野菜の付け合わせも一緒に取るのだそうだ。
ただブラジル野菜といっても
ブラジル原産の野菜はほとんどないらしい。

たとえばビーツの原産地はシチリア島、
このくだりを読んでポンと膝を打った。
ビーツと言えば、真っ先に連想するのが
ロシア料理のボルシチ。
てっきりロシアかポーランドあたりの
寒い国が原産地だと勝手に思い込んでいた。

ビーツとシチリア島でひらめいたのは
ある1皿のスパゲッティ。
料理名をスパゲッティ・デル・パドリーノといった。
直訳するとゴッドファーザーのスパゲッティ。
ニューヨークのトライベッカ地区は
今は無きワールドトレードセンターの
ちょうど北側にあたる一画なのだが、
そこに「Gigino」というリストランテがあって
その店の名物がこのスパゲッティなのだ。

アンチョヴィとにんにくで調味され、
日本では見かけることのないエスカロールという
葉野菜が目と食感のダブル・アクセント。
シンプルな美味しさのスパゲッティは
アリオ・エ・オリオに一工夫施した感じだが、
最大の特徴はスパゲッティ自体にある。
なんと麺が真っ赤に染まっているのだ。
これは大量のビーツを打ち込むせいだが、
見るからに血塗られたスパゲッティそのもの。
おそらくそんなイメージを
コーザ・ノストラの血で血を洗った抗争の歴史に
なぞらえて名付けたものだろうと
タカをくくっていた。

ところがどっこい、それだけではなかった。
そんな安易なネーミングだけではなく、
ビーツの原産地がシチリアだからこその
スパゲッティ・デル・パドリーノだったのだ。
名付け親はオーナーかシェフだろうが
なかなかのセンスの持ち主でなくばこうはいくまい。

そう言えば、もう1つのシチリア風パスタの
アグリジェント風ファルファッレも秀逸だった。
鶏肉とトマトとアーモンドの粉末を合わせた
蝶タイ形パスタはシチリアの匂いがいっぱい。
ほかにもポジターノ風ラヴィオリ、
サラセン風海老のソテーなど
南イタリアのカラーが輝いて、気に入りの店だった。

レンガがむき出しの壁面はどことなく
カンティーナ(ワイン蔵)の中にいるかのよう。
夜が更けてから、どこからかこの店のバーに流れて
1杯のグラッパをよく飲んだ。
疲れ気味の夜には甘いものがほしくなり、
ノチェッロ(くるみのリキュール)に
切り替えたりもした帰らざる日々がなつかしい。

 
←前回記事へ

2007年5月28日(月)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ