「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第237回
わが永遠の市川雷蔵

好きな女優さんたちはみな健在なのに
好きな男優はほとんどが逝ってしまった。
石原裕次郎・鶴田浩二・渥美清、
誰もがけっして長生きをしていない。

市川雷蔵などその最たるもので
J・ディーンや赤木圭一郎よりは長命だったが、
それでも早すぎた死が惜しまれてならない。
あと20年も生きてくれれば、日本の映画界どころか
歌舞伎界にも大きな足跡を残したはずなのに・・・

「眠狂四郎」・「大菩薩峠」・「忍びの者」・
「陸軍中野学校」と人気シリーズは数々あれど、
心に刻まれて残るのは歌舞伎狂言の
「白波五人男」を題材にした「弁天小僧」と
同じく「与話情浮名横櫛」を材にした「切られ与三郎」。
どちらも名匠・伊藤大輔の面目躍如たる出来映えだ。

今年のGW期間中の2日間、
池袋の新文芸座でこの2本が併映された。
何を置いても駆けつけねばならぬと馳せ参じ、
あらためて雷蔵の不世出性を再確認するに及ぶ。

「知らざぁ、言って聞かせやしょう」の
「弁天小僧」は世の中に背を向けた
義賊的悪人の中に潜む男の色気の滲みがいい。
ヒロインの青山京子(小林旭夫人)も
胸に沁み入る可憐な演技、彼女の生涯ベスト作品だろう。

「いやサお富、久しぶりだなぁ」の
「切られ与三郎」は義理と人情の板ばさみ。
渡世のアヤで女に売られ続けた裏目裏目の裏街道。
淡路恵子・中村玉緒・富士真奈美の女優陣も大健闘だ。
富士真奈美だけは少々ミスキャスト気味ではあったが。

観終わって満たされて、陽が燦々と降り注ぐ午後の池袋。
朝からミルクを1杯飲んだきりで、空腹感に襲われた。
その日の夜は浅草の「鮨よしだ」に予約を入れてある。
遅い昼食は軽めに仕上げておかねばならない。

20分ほど映画館の周辺を探索して
豊島区役所の裏に「美蕎」というそば屋を発見。
店先の品書きにあった鴛鴦(おしどり)せいろなる
ネーミングに惹かれての入店。
合もり、あるいは二色もりと呼ばれるものは
せいろと粗挽きの盛合わせだった。
活〆穴子の天ぷらを組み合わせて1670円也。

太め平打ちの粗挽きは香り高く、
噛み心地よく、そばをガツンと食べている印象。
つゆも際立つ特徴はないものの
やや辛口でケレンは感じさせない。
薬味は細かく刻みすぎたがゆえに
絡み合ってしまったさらしねぎとニセわさび。
中細のせいろはごくごく普通ながら
活け〆穴子の品質と天ぷらを揚げる技量には?マーク。
天井が低い地下店舗は蒸し暑く、居心地もよろしくない。
これでは割高感が残るのも致し方なし。

ふと思い立ち、帰りは池袋から柳橋まで歩くことに。
茗荷谷から白山へ迂回して、根津・上野を経由する。
東京の町には家々のジャスミンの香りがここかしこ。
この花の香りは強烈にすぎて鼻腔に痛みを感じるほど。
春先の沈丁花がことのほか懐かしく思われる。
何事もすぎたるは及ばざるがごとし。

 
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2007年5月29日(火)

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