「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第242回
若冲の「動植綵絵」を着る

若者の間でも女性の間でも伊藤若冲が大変なブームだ。
おりしも京都の相国寺承天閣美術館で
若冲展が開かれたばかり、傑作として名高い
「動植綵絵」三十幅も公開された。
とりわけ13羽の雄鶏がひしめく「群鶏図」が好きだ。
鶏たちのとさかの朱赤が強烈なインパクトを与える。

1年ほど前に浜松に出掛けた。
三方原の「うな正」で浜名湖から揚がった
天然うなぎを賞味するのが旅の目的。
無事食べ終えて、浜松市内に戻り、街を散策中に
とある衣料店の前で釘付けとなった。
店先にディスプレイされた
1枚のアロハシャツに目を奪われたのだ。
そこには真っ赤なとさかの雄鶏が何羽も描かれ、
一目で「群鶏図」を連想させるもの。
バックのカーキ色まで絵にそっくりなのである。

これは単なる偶然ではないだろう。
デザイナーは若冲の「群鶏図」から
ヒントを得たに相違ない。
このシャツを羽織るとチンピラヤクザに
見えないこともないのだが、無条件で買い求めた。
確か8千円ほどだったと思う。
以来、夏場に焼き鳥を食べに行くときには
このシャツと決めている。

月日は流れて1年後。
5月10日。木曜日の正午前。
次作「古き良き東京を食べる」の取材のため、
江戸川橋の「綵彩」という中国家庭料理店を訪れた。
湯麺と餃子が人気の小さな店なのだが、
店名の「綵」の字に惹かれるものがあったのだ。
もちろんその根底にあるのは
若冲の「動植綵絵」であることは言うまでもない。
ほかではほとんど見かけない字ですから。

注文した湯麺と餃子が出来上がるまでの間、
日経新聞を開いて思わず飛び上がりそうになった。
なんと目に飛び込んできたのは、大写しの「群鶏図」。
それも色鮮やかなカラー刷り。
特集記事が取り上げていたのは若冲展だったのだ。
これを単なる偶然と片付けるほどに
J.C.はお人よしではない。
目に見えない因果関係がどこかに潜んでいるはずだ。
と言いつつ、必死に必然を捜し求めても
結局は何も見つからないのは毎度のこと。

機械的にそばをすすり、餃子をつまんでも
すでに心ここにあらず。
スープが薄味だったこと、餃子が香ばしかったこと、
それ以外は何も覚えちゃいないのである。
1100円を支払い、そのままフラフラッと南へ。

五軒町の坂を上り、神楽坂に達する。
しばらく休業していた甘味処の「花」が
数日前から店を開けている。
軽食も提供しているので暖簾をくぐり、茶そばを所望。
この茶そばのコシのなさに愕然としてわれに返った。
甘味にかけては東京屈指の名店が
とんでもないものを出すものだ。
よって次作への掲載を断念する。

この日の夜は神保町の「海南鶏飯」の予定。
気を取り直し、若冲に思いを寄せて
くだんの鶏シャツで出掛けることにしよう。

 
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2007年6月5日(火)

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