「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第252回
想い出の詰まったハンバーガー (その5)

グロスターロード駅前の「WIMPY」で
「スタッフ募集」の貼り紙に出会った翌日から
もうウエーターとして働き始めていた。
英会話もおぼつかないのに客に向かって
オーダースリップ片手に
「Yes Please!」とやっていたのだ。

三大売れスジはウインピー(ハンバーガー)・
チーズバーガー・チップス(フライドポテト)。
これをスリップにそれぞれ、W・CB・Cと
書けば事足りたのだからラクなものだ。
チップス付きのチーズバーガーならば、W+C。
ちなみに英国ではフライドポテトをチップスと呼び、
ポテトチップスのことはクリスプスと言う。

いくらもらっていたかは忘れてしまったが、
ウエイターはシェフやコーヒーボーイに比べて
基本給が少ない代わりにチップが入るのが最大の魅力。
生活は劇的に改善する。
客のテーブルに置くスリップの裏には
効果的にも「Service is not included」の
スタンプが押されているのだった。
それでもイギリス人は質素というかケチというか
彼らのくれるチップは微々たるもの
われわれの最大の顧客は外国人観光客だったのである。

これには大きなカラクリがあって
ウエイターがこの客は外国からのツーリストだなと
思ったら客のスリップの上隅に「×××」と×の字を
3つ書き込んでおくのである。
客の支払い時にこれをみたキャッシャーは
有無を言わせず、10%のサービス料をチャージして
チップボックスにキープしておくシステムだ。

すぐそばにエアターミナルがあるせいか
外国人の数は半端ではなく、
殊に夏場などまさに「濡れ手に粟」状態。
このおかげで人種を見る目が大いに養われ、
独・仏・伊など朝飯前で
オランダ人・ポーランド人・スウェーデン人まで
見分けられるようになった。

後日、ニューヨークのレストランで
テーブルを担当してくれたウェイトレスに
「ポーランド人でしょ?」と訊ねたら
「そうなの!どうして判ったの?
 ポーランド人?って訊かれたの初めてよ
 ずっとロシア人って言われてたから・・」
灰色の瞳に涙がうっすらと浮かんでいた。

さてロンドンの「WIMPY」。
春先から秋の終わりまではずっと観光シーズン。
勝手にサービス料を徴収された観光客のおかげで
潤ったわれわれは冬場に休暇を取り、
暖かい南仏やイタリアに出掛けてゆくのである。

その後、「WIMPY」は「McDonald’s」に侵食されて
ロンドンの街から完全に消え去った。
調べてみたら、「WIMPY」は「McDonald’s」の1年前、
東京にも1号店を開いていたのだった。
先日、NHKの「Weekend Japanology」という番組の
収録で一緒になった英国人のピーター・バラカンと
「WIMPY」のハナシになり、お互い懐かしさで
胸がいっぱいになったものだ。
帰らざるわが青春の一コマでした。

           =おわり=

 
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2007年6月19日(火)

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