「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第254回
銀宝の天ぷらを食べる (その2)

きすを食べながら、銀宝を1尾追加すると
揚げ手の店主がうれしそうに微笑んだ。
5人組にも海老が配られ始めた。
揚げ立ての海老をつまみながら
ようやく若い衆が笑顔で言葉を交わすようになった。
目の前で揚げる天ぷらは始めてなのかもしれない。
美味しいものの前で人間は正直、殊に若者は素直だ。

独りでカウンターに座っていると話し相手とてなく、
ついついピープル・ウォッチングに走ってしまう。
あまりほめられた習性ではない。
きすの次はめそっ子が半尾。
めそっ子は穴子の幼魚のことで、天ぷら屋の定番。
成熟していないぶん、繊細な旨みを蓄えており、
大人になった穴子より好きだ。

しじみの赤だしが下町らしい濃厚な味付け。
新香はきゅうりのぬか漬けとキャベツもみ。
ごはんはまずまずといったところで特筆に価せず。
総じてこの3点セットに不満はない。

めそっ子のあとは精進ものが続く。
最初のかぼちゃは天種のうちで
もっともうれしくないもの。
ツレでもいれば、即刻横流ししてしまう。
せめてさつま芋にしてほしいが、
コストはずいぶん違うのだろう。
長いまま2本並んだいんげんはありがたい。
いんげん・絹さや・小玉ねぎが
野菜の天ぷらの三大好物だからだ。
そして半割の茄子と1本のししとう。
以上が1500円のサービスランチの全容。

ここでお待ちかねの銀宝。
申し遅れたが、これは「ぎんぽ」と発音する。
どぜうと穴子と雷魚をすべて足して
3で割ったようなルックスに
鋭い背ビレを持ち、迂闊に触ろうものなら掌が切れる。
このことからカミソリの異名を取る怖いサカナだ。

天ぷらのほかに使いみちがないと言われる
銀宝との出会いは天ぷら屋ではなかった。
入谷に「魚直」なるふぐを中心とした
活魚料理の店があるのだが、ここに煮魚としてあった。
穴子に似たサカナなら、煮ても揚げてもイケるはずだ。

一説には春先が旬と言うし、
大型連休明けの5月とも聞く。
ただ6月の半ばというのは
名残りとしても遅すぎた感が否めない。
漁場は主に東日本の湾内が主産地で
東京湾でも取れるものの、漁獲量は少ない。

目の前の銀宝の天ぷらは鱧か穴子を
ずんぐりむっくりに太らせたようないでたち。
軽く塩を振り、口元に運ぶと
ミッシリとした白身の肉質がキメこまかく、
めごちと穴子の中間といった感じ。
歯ざわり快適で、鼻に抜ける香りも格別だった。
残りの半分は天つゆでやり、
その美味しさになんだか得をした気分。
気になるお値段は、支払いが2300円だったから
1尾800円ということになる。
けして安くはないが、この時期に出会えてよかった。

 
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2007年6月21日(木)

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