「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第266回
5つの塩で食べる天ぷら

浅草の新仲見世と交差する浅草公園通りに
数ヶ月前、1軒の天ぷら店がリオープンした。
それも半年休業しての新装開店などではなく、
実に10年ぶりの商売再開なのだ。

隣りは「釜めし春」、向かいは焼肉の「金楽」、
有名店・人気店が立ち並ぶ一画だから
立地条件は極めて良好。
なぜに10年も暖簾をしまっていたのかというと
天ぷらを揚げる職人さんがいなかったのである。
先代が体をこわして揚げ場に立てなくなり、
そのあとを継ぐものがいなかった。
このたび、晴れて先代の甥っ子にあたる後継者が
独り立ちしたわけだ。

店内は完全禁煙。
カウンターがちょっとせせこましい。
その奥に小さな四人掛けのテーブルが1つ。
2階もあって、飲みものは2階から下りてきた。
揚げる店主はまだうら若い。
お運びは顔がそっくりだから弟さんだろう。
2階から下りてきた女将さんもそっくりで
お母さんに違いあるまい。

2人で出掛けてビールの小瓶をお願いすると
アサヒスタイニーが登場した。
注文は特製天丼(1300円)と天ぷら定食(1600円)。
ドンブリと言うより四角い深皿に盛られた
天丼の内容は、海老2尾・きす・ピーマン・
茄子・小海老の小かき揚げ。
定食は上記にさつま芋がプラスされる。
薄いさつま芋1枚が300円に相当するわけだ。
これにそれぞれ、なめこの味噌椀、
たくあんとキューちゃん風の新香が付く。
味噌椀はなめこだけで味も素っ気もなく
出来合いの新香もおざなり。
このあたり浅草っ子の気概をみせてほしい。

店のビジネスカードには
「アッサリ サクサク 現代風 江戸前天麩羅」と
明記されているものの
揚げられる天ぷらは江戸前よりも関西風に近いもの。
天丼の丼つゆも薄めのものを
シャバッとあと掛けするタイプ。

そしてこの店のもう1つの大きな特徴が
天ぷらを塩だけで食べさせること。
卓上には5種類の塩が並んでいた。
左から、海老塩・オニオン塩・瀬戸内天然塩・
カレー塩・味噌塩で、天然塩以外はすべて自家製。
なるほどそういうことか。
天丼と定食の300円のギャップは
さつま芋だけではなく、お塩代が含まれていたのだ。

確かにこの天ぷらには塩のほうがマッチする。
海老もオニオンも素材の個性がキチンと
塩に溶け込んでいる。
味噌塩などは生のきゅうりやセロリ、
あるいはトマトなんかに振りかけても合いそうだ。
けして好きなタイプの揚げ上がりではないが、
浅草においでの際は、試されても悔いのない
1つの天ぷらのカタチがここにある。

 
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2007年7月9日(月)

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