「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第277回
日本の誇る五大どんぶり (その5)うな丼篇

うなぎはどんぶりに限る。
それも瀬戸物のどんぶりが好ましい。
赤坂の高級うなぎ料亭「重箱」が店名そのままに
うなぎの蒲焼きを重箱に詰めて以来、
うな重が日本中を席巻して
うな丼はほぼ絶滅の憂き目を見るに至る。
今ではうな丼を供する店を探すこと自体が
容易ならざることと相成った。

店側に取って重箱には利点が多いことが
どんぶり衰退に拍車をかけた最大の要因だ。
(1)落としても破損しにくい。
(2)蒲焼きをごはんに乗せてピタリとキマる。
(3)重ねやすく配膳にも格納にも便利。
(4)どんぶりモノとは一線を画す高級感を演出。
ザッと挙げただけで、これだけのメリットがあれば
普通の店は重箱になびきますわな。

南千住「尾花」は2300円から500円きざみで
3種類のうな重を提供していて
その真ん中だけはどんぶりで出される。
ただし、惜しいかな、木製なので
どんぶりではなく、大ぶりなお椀である。

築地「宮川本廛」はもっとも好きな店の1軒。
建て替えられて、往年の風情は消えたが
それでもうなぎをいただくには快適な空間だ。
そして何よりうれしいのは
どのクラスのうなぎを注文しようとも
どんぶりと重箱を客が選べるシステムだ。
小股の切れ上がった和服の美人が
品のいい初老の紳士と現れて
「貴方はお丼で、私はお重にいたしましょうネ」
なんてシャレた芸当も可能となるのである。

あっさりとしたタレをまとったうなぎは
爽快な香気を発して箸を入れるのを
一瞬ためらうほどに照り輝いている。
東京で一番のうな丼がここにある。

証券会社の立ち並ぶ日本橋兜町の「松よし」は
世にあまり知られていない隠れた名店。
店の存在には数年前から気付いていたものの
それほど気にとめていなかったせいか
初めて暖簾をくぐったのはつい去年の夏のこと。

独り訪れて隅っこの小さなテーブルに案内され、
一番安い1800円のうな重を頼んでみた。
「何だ!うな丼じゃなくって、うな重かい?」
いや、ごもっとも。
実は後日談があり申す。

うなぎもタレもスッキリ味のうな重を
ほおばりながら店内の貼り紙に気付いた。
ランチタイム限定50食の
うな丼(1200円)があるという。
50食も作って限定というのもどうかと思うが
翌週、その「限定」を食べに戻って驚いた。
人気商品につき、多少の作り置きには
目をつぶるとして、じゅうぶんに水準をクリア。
これのおかげで、他店の客がオジさんばかりなのに
この店ではたくさんのOLさんが
嬉々としてどんぶりを抱えているのである。

         =つづく=

 
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2007年7月24日(火)

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