「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第281回
深川にプロの集まるビストロあり (その1)

子どもの頃のほんの一時期住んだだけなのに
深川という土地は心に深くきざみ込まれている。
そぞろ歩いた深川不動の縁日。
水掛け祭りでかついだ神輿。
農水省の米蔵の床下にもぐって獲ったざりがに。
勝手に忍び込んで勝手に泳いだ商船大学のプール。
思い出は夏に集中していて
下町好きはこの時期に刷り込まれたものらしい。

数年前に建った巨大なイトーヨーカ堂の
隣りにある平久小学校がしばしの学窓だった。
この一画には当時、藤倉電線(現フジクラ)の
大工場や社宅があり、クラスメートにも
父親が藤倉電線勤務の子女が多かった。

彼らとよく食べたのが、もんじゃ。
深川に引っ越す前は大森に住んでいて
その地ではどんどん焼きが主流だったから
子ども心にも彼我の違いの大きさに
驚き戸惑った記憶がある。
ちなみにフジクラの本社だけは
今もこの地に残っている。

さて、典型的な東京の下町、深川は門前仲町に
「プチ・ニース」というフレンチビストロがある。
下町に深夜営業の飲食店は数少なく、
ましてやフレンチとなれば、なおさらだ。
この店は夜中の3時頃まで開いていて
毎夜、仕事帰りにプロの料理人が集まるという噂だ。

同好の志が真夜中に終結するとなると
「ゲゲゲの鬼太郎」の世界を想像してしまう。
若手のシェフたちが夜な夜な
ワイングラスを傾けながら
情報交換にいそしむのは大事なことなのだろう。

ロケーションは永代通りをはさんで
富岡八幡宮の反対側。
永代通りと大横川の間を
三本川のように平行して走る裏通りにある。
細いわりに料飲店の立ち並ぶストリートで
東西線・門前仲町駅2番出口から徒歩1分の距離。

うなぎの寝床のような店内のテーブル配置は
縦一直線、右手の壁際がソファ席になっている。
心地よい空間とはいいがたいが、
常連ばかりだと、また落ち着くのかもしれない。

フロアを担当するのは若い女性独りきり。
料理の知識がしっかりしているから
質問のたびに「少々お待ちください」の
言葉を残して厨房と客席を
行ったり来たりということがまったくない。
レストランの接客係としての基本ができている。

メニューを開くと
さすがにプロの料理人の吹き溜まり。
食欲と興味と好奇心をそそる料理が目白押し。
皿を食べるのに匹敵するほどの喜びを
皿を選ぶことに実感したのだった。

          =つづく=

 
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2007年7月30日(月)

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