「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第293回
明治生まれの洋食屋3軒 (その2)

明治生まれの洋食屋3軒。
その1軒目は人形町・甘酒横丁の「来福亭」。
昼どきに長蛇の列がこれ見よがしの
親子丼専門店「玉ひで」の隣りに
仕舞屋風の佇まいを見せているが
さぞや「玉ひで」の行列がうっとうしかろう。
明治37年の創業だから、日露戦争の真っ只中。
大変な年に商売を始めたものだ。

ガラス戸を引いて中に入ると
小さな木のテーブルが2卓、殺風景に並んでいる。
椅子に腰掛け、壁の品書きを見上げて
オムライス(700円)を注文する。
時計が止まってしまったような店内は
静かに昔ながらの洋食を味わうには
これ以上望めぬシチュエーションだ。

運ばれたオムライスはチキンではなく、
豚小間切れが入ったポークライスに
薄焼きのオムレツがふわりと
タオルケットのように掛けられた1皿。
その上にケチャップ&ウスターが
混じり合うソースとグリーンピースが2粒。
眺めているだけで心和む景色は
オムライスというよりも天津丼を偲ばせる。
粗いみじんにきざんだ玉ねぎのシャッキリ感が快い。

一夜、4人で2階のお座敷に上がった。
この空間もまたレトロにして快適。
昭和の民家に招かれたが如くだ。
立て込んでくると相席になる大テーブルは
すぐそばの「芳味亭」と同様のスタイル。

カツレツや帆立フライなど、
揚げものの味はけっして悪くはないが
コロモがはがれやすく、それならば
チキンやポークのソテーがオススメ。

メンチエッグなる面妖なネーミングの1皿は
メンチの中にゆで玉子の潜む
スコッチエッグかと思いきや、
何のことはない目玉焼き乗せハンバーグだった。
ライス・味噌汁・新香の三拍子揃った佳店である。

「来福亭」から「玉ひで」の前を通り過ぎ、
なおも甘酒横丁を数十メートル行くと
同じ並びにあるのが「小春軒」。
こちらは明治45年の創業。
店のHPに
「山縣有朋のお抱え料理人だった小島種三郎さんが
春さんと結婚したことから小春軒と名づけられました」
――とあった。
小島の春さんで小春だ。
「王将」は坂田三吉の女房の小春を思い出す。

この店では毎度、
とんかつ盛合わせ定食(950円)を注文してしまう。
皿の真ん中に小さめのとんかつが居座って
その両脇に、メンチ風コロッケ・鮭フライ・
いかフライ・いかゲソと玉ねぎの洋風かき揚げ。
揚げ油はラードが9割、大豆油が1割。
ラードの香ばしい匂いいっぱいのとんかつを1切れ、
箸でつまんでパクリとやった。

            =つづく=

 
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2007年8月15日(水)

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