「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第294回
明治生まれの洋食屋3軒 (その3)

小島家に嫁いで来たお春さんが
店名の由来となった「小春軒」。
とんかつ盛合わせ定食(950円)の
とんかつをパクリとやると
舌に広がる味はあくまでも庶民的。
町の精肉店のそれに近い。

盛合わせとライスだけでは寂しく、
しじみ味噌汁(200円)と新香(150円)も追加。
定食なのだからセットにしてくれると
サラリーマンやOLさんが喜ぶこと受け合い。

スタッフは4人きり。
揚げものは主人で、息子がソテーと炒めもの。
女性2人は盛り付け係と接客係。
役割分担が明確なために仕事がはかどり、
料理を待たせないのは優良店の証しだ。

「来福亭」と「小春軒」はともに
人形町の目抜き通り・甘酒横丁にある。
ところが3軒目は深く静かに潜行して
そう簡単には見つからない。

2年前の夏に上梓した
「J.C.オカザワの下町を食べる」の執筆にあたり、
下町の隅から隅まで自分の足で歩き通した。
その結果、見落とした名店は皆無という自負のもと、
原稿を書き終えたが、この店だけはもらしてしまった。
存在にまったく気が付かなかったのである。

店の名は「桃乳舎」。創業は明治22年。
界隈に勤める友人から情報を得るやいなや
一目散に出掛けて行ったのだった。
店先に佇んで、しばし息を飲んだ。
スゴい!スゴすぎる!しばらくはわが目を疑った。
この東京にまだこんな店が生き残っていようとは!
2007年に入って最大の発見はこの「桃乳舎」だ。

しかし、なぜ見過ごしたのだろう。
この店の前を通ったにも関わらず、
看過してしまったのはおそらく週末のことで
店が休みだったからに違いない。
主として、土日祝日に店探しの
散策を敢行する身にとってはくれぐれも
マスト・ペイ・モア・アテンションなのだ。

店内に足を踏み入れて幸福感にひたる。
絵の好きな方なら判っていただけようが
佐伯祐三の油絵をソフトタッチにした感じ。
フロア担当のお婆ちゃんと孫娘が面白い。
見ていると孫のほうがずっとエラそうで
お婆ちゃんがイジメられてるみたいなのだが、
お婆ちゃんにその自覚なく、滑稽で微笑ましい。

本日のランチの値段にはビックリした。
肉団子の野菜あんかけが480円なのだ。
洋食屋らしからぬ中華風の献立ではあったが
味はしっかりしていて、この値段なら文句はない。
と言うよりも、ほのかに美味しいのだ。
早朝8時から夕方17時まで営業の
洋食&喫茶の店は11月頃に発売予定の
「ドクロ本第2弾」で詳しく紹介してみたい。
もちろん「行かなきゃいけない無名店」としてである。

 
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2007年8月16日(木)

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