「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第337回
娼婦と鳩とインド街 (その2)=欧州篇

パリの中心となるシテ島から見て
北東に位置するサン・ドニ門に
近いインド料理店での昼食。
界隈には精肉店がやたらに多く、
アジア系の若い娼婦たちが
明るいうちからカフェにたむろしている。

道行く人々はさまざまな人種が入り混じっているが
アフリカ系黒人がきわめて多い。
車に轢かれた数羽の鳩の残骸を
目にしてしまったこともあって
パリ中でこのエリアがもっとも生々しい感じがする。

そうそう、インド料理店が軒を連ねる
パッサージュ・ブラディにある「New Calcutta」の
7ユーロに満たない昼定食の豪華さに
ぶったまげたのであった。
まず目を奪われたのはタンドゥーリチキン。
大きな鶏のもも肉が1本ズドンと皿に乗っている。
あとはラムのカレー、野菜のサブジ、酢油キャベツ、
バスマティ・ライス、フロマージュ・ナンが
テーブルにあふれ出さんばかり。
2人で食べてちょうどいいくらいのボリュームだ。

肉汁いっぱいのチキンがとてもいい。
スパイスとヨーグルトの風味付けもほどよい。
熱々のラムカレーで舌を焼いたが
これもインドカレーの醍醐味にあふれている。
インディカ米の代表格のバスマティとの相性抜群だ。
エスニックのカレーやピラフは
インディカ米でないと持ち味が出ない。

付合せ的な性格を持つサブジとキャベツさえも
けっしておざなりなものではなく、
箸休めならぬ、フォーク休め以上の役割を果たす。
こういうバランスのとれたセットメニューを
目の前に出されると、東京のインド料理店のそれが
きわめてチャチなものに思えてしまう。

そして極め付きが、フロマージュ・ナン。
チーズを包み込んで焼き上げたナンは
ときどき東京でも見られるような
取るに足らないメルティングチーズではなく、
カマンベール系の白カビチーズを
使用しているので、食味の良さが格段に違う。
これには素直に脱帽だ。

かくしてこの旅行中、指折りの食事となった。
昼食に限れば、ベストかもしれない。
しかも1200円ほどの値段を考慮すると
この価値が余計に高まろうというものだ。
東京のインド料理店で食べたら
2500円から3000円は覚悟しなければならない。

食後、サン・マルタン運河のほとりを歩む。
もはや古き良きパリの面影を
今に残す数少ないスポットになってしまった。
木陰にたたずんで、ぼんやり水面を眺めているだけで
心に沁み入るものがある。
まだティーンエイジャーだった1970年代、
初めてパリを訪れたときの感激は
もう望むべくもないが、この運河だけは特別な存在だ。

「Hotel du Nord(北ホテル)」のカフェで
ハイネケンの生ビールを飲みながら、
パリの再訪はしばらくの間はないだろうな、
そんな予感がしていた明るい陽ざしの昼下がり。

 
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2007年10月16日(火)

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