「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第347回
桂川の若鮎と 吉野川の大うなぎ (その1)

現在の東京の和食界にあって
もっとも異彩を放っている店はどこだろう?
一も二もなく、六本木の「龍吟」の名を挙げたい。
店主のY本氏の料理に懸ける意気込みや
好奇心は並大抵のものではないからだ。

目の前の料理に目をみはることは
ほかの店でもあることだが
思わず噴き出してしまう皿に出会うことはまれだ。
思いついたら、実行しないと
気が済まない彼の茶目っ気ぶりが
テーブルいっぱいに躍動している。

食いしん坊集団6人が週末に集まった。
シャンパーニュ、ナパのシャルドネ、
ピエモンテのバルバレスコ、スーパートスカーナなど
抜いたボトルは5本ほど。
メンバーは揃いも揃って
食いしん坊でありながら呑ん兵衛でもある。

ブルターニュ産オマール海老と
生海胆のすり流しでスタートする。
近頃は伊勢海老よりもオマールのほうが
大海老の魅力と醍醐味を富むのだそうだ。
確かに旨みの濃度が高いように感じた。

カリフラワーとういきょう(フェンネル)に
特製ポン酢のシャトー龍吟'70年を
掛けまわした1皿はしゃれっ気タップリ。
ポン酢はご丁寧にラベルの貼られたワインボトル入り。
コルクを抜いてサーヴするのだ。

炒り桜海老と白ずいきに切り海苔と三つ葉を和えて
唐墨を散らした皿が三番目に登場。
その情景は遠山の金さんよろしく、
桜吹雪が舞っているかのようだ。
日本料理の伝統や様式を逸脱しているようで
俗に言う創作料理にありがちな軽薄さを
微塵も感じさせないのは
料理人の知性と力量に拠るところが大きい。

蒸しあわび・煮穴子・ずわい蟹の盛合わせ、
茄子と冬瓜の炊きもの、たたみいわし素揚げ、
ふかひれフライなどが次々に現れてくる。
吸いものには、鱧・キャベツ・松茸・青柚子。
おだやかな滋味をたたえたお椀に、ほっと一息つく。

お造りは、真がれい・あおりいか・大とろの3点盛り。
真がれいは、おなじみの真子がれいとは別種。
身肉の厚みが真子の倍ほどもあるという。
なるほど目の前のスライスも
相当な厚切りとなっている。
あおりいかの緻密なテクスチャーが
ねっとりとしたコク味を生み出す。
こてりと脂ののった大とろは、ご存じ大間の産。

ここでいよいよ本日の主役・その一が姿を現した。
愛媛県の桂川で釣り上げられた若鮎が
ガラスの容器に入ってお目見えだ。
泳いでいる、ゲンキに泳ぎ回っている。
この可愛い淡水魚をこれからいただくのだから
われわれ誰一人として、天国に行ける者はいない。

     =つづく=

 
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2007年10月30日(火)

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