「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第350回
焼肉の名所に トンデモないにぎり鮨

兵庫県は西宮の西宮神社、通称えべっさんで
とり行われる友人の結婚式に出席するため、
その前夜に大阪に入城。
里見真三さんの「いい街すし紀行」(文藝春秋)が旅の友。
その名著片手に、大阪一の焼肉タウン・鶴橋に向かう。

学生時代からの友人と鶴橋駅で待ち合わせて
卸売市場近くの「寿し吉」を目指す。
迷路のようにゴチャゴチャとした
アーケード街を彷徨しつつ、
どうにかこうにかたどり着くが
「オリジナルにぎり」と染め抜かれた
大きな暖簾には呆気に取られた。
里見氏の本を拝見していなければ、
迷わず立ち去るところだ。

予約時の約束で17時から18時までの1時間勝負。
18時から団体の貸切り予約が入っているためだ。
カウンターに2人並び、再会を祝して生ビールで乾杯。
最初に登場したのは茹でたずわい蟹と
その脚肉のにぎりが1人2カンずつ。
これは本来なら、出てこないハズのネタだと思われる。
団体用の宴会料理のおすそ分けだろうが
これはこれで良し。

続いて、おろしポン酢をチョンと乗せた真鯛が2カン。
カリカリのにんにくとオリーヴ油のキングサーモン。
おろし生姜と青唐・赤唐をあしらった秋刀魚。
蟹や帆立のほか、海胆とフォワグラも入ったグルメ玉子。
泉州岸和田特産の水茄子と北方四島産の生海胆。
バルサミコ風味のフォワグラソテー。
締めは芽ねぎと花がつお。
計10カンで一通りが終わった。

生ビールのお替わりをしながら
追加でにぎってもらったのは的矢産の生がき。
これはおろしポン酢とすだちでやった。
ほかには、たこの柔らか煮、熊本産の桜肉など、
挽かれるものもないではなかったが、
時間の制限もあることだし、このへんで打止めにしておく。

頑固な江戸前鮨ファンなら、
目を剥きそうなにぎりの数々は、それなりに楽しめた。
中でもサーモン・秋刀魚・水茄子&生海胆がよかった。
フォワグラも一応は成功している。
ただし、本で見た写真があまりにも美しく、
大きな期待を掛けすぎてしまって
現実とのギャップに折り合いを
つけねばならぬ自分がいたことも確かだ。

コテコテに脂ぎった焼肉の街・鶴橋で
にぎり鮨を前面に押し出す繁盛店には
この土地の水が合っているように見える。
もしこの店が東京に出店するとしたら
銀座や浅草では許容されない代わり、
六本木・渋谷・新宿なら人気を博するのではないか。

里見氏が「寿し吉」を評した文面の最後にこうある。
「そう言えば、かの大食通、
 邱永漢氏も年に一度はお忍びで現れて、
 斬新風味に舌鼓を打つそうだ」
あらためて、わが主宰の神出鬼没ぶりに舌を巻く。

 
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2007年11月2日(金)

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