「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第355回
裕次郎が海を見ていたレストラン

このところ、鎌倉・逗子方面に出掛けることが多い。
新著の取材を兼ねて、古刹を訪ねたり、
潮風に吹かれたりしている。
新著というのは、小説家&評論家・映画監督&俳優・
作曲家&歌手・画家&漫画家・落語家たち、
いわゆる文豪・巨匠・名人の「食跡」を
たどってゆくもので、彼らの人となりと
行きつけた店の紹介に視点を置いている。

登場する人物の一例は
森鴎外・永井荷風・三島由紀夫・松本清張・開高健・
小津安二郎・黒澤明・長谷川一夫・中村勘三郎・
古賀政男・美空ひばり・藤田嗣治・岡本太郎・
手塚治虫・古今亭志ん生・柳家小さん、
といった面々が、のべ約50人。

鎌倉には小林秀雄や田中絹代、
大船には渥美清を追跡するために出掛けた。
葉山の森戸海岸には石原裕次郎が
行きつけた中華料理店を訪ねたのだった。

日曜日の朝に家を出て、横須賀線で馬喰町駅を出発。
逗子駅からはバスに乗り、
15分ほどで目当ての「海狼」に到着する。
おりしも七五三シーズンで、ほぼ満席の盛況ぶり。
相模湾に臨む窓際のテーブルに案内されてゴキゲン。
真正面には残雪を冠した富士山が
その美しい姿を惜しげもなくさらしてくれている。
ヨットやウインドサーフィンの帆の
向こう側には緑の江ノ島も見える。

石原裕次郎がこの「海狼」をしばしば訪れている。
海とヨットを愛した彼にはうってつけの店だ。
立て続けにグラスのビールをあおりながら
海を見つめていたという。
裕次郎には海だけでなく、港もよく似合った。
横浜・神戸・小樽・函館と、
映画のシーンが次々とよみがえってくる。

冷たいビールとともに、まずは好物の雲白肉。
茹でた豚肉の薄切りをにんにく風味のタレで
味わう料理だが、これは冷やして供される。
他店ではバラ肉が使用されることが多いのに
この店ではロースが使われていて、これもまたよし。

本日のおすすめ料理の中の一品、
上海蟹と白菜の煮込みが白眉。
白菜が良質の上湯(しゃんたん)の旨みを
全身に吸い込んでいるのだ。
下味に施された丁寧な仕事が大きな成果を生んでいる。

和漢を問わず、白菜の漬物は大好きだが、
火を通した白菜でこんなにすばらしいのは
生まれて初めての経験かもしれない。
この1皿だけのために
はるばる葉山へくることを厭わない。

帰りは海岸に沿って、かなりの距離を歩く。
葉山マリーナ・披露山公園・大崎公園・材木座・
由比ガ浜を経由して長谷の大仏に至る。
湘南の海を満喫した充実感に浸り切る一日であった。

 
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2007年11月9日(金)

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