「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第364回
もはや梅干にして 梅干ではない!

毎月連れ立って食事に出掛ける友人の
N戸夫妻からおみやげをいただいた。
彼らがくれるのは決まって食べものか酒類だから、
食いしん坊のJ.C.としては
毎度ありがたく頂戴している。

今回のいただきものは梅干であった。
普段はそれほど梅干を食べないのだが、
冷蔵庫に在庫があれば、
まれに1粒ポケットに忍ばせて
昼メシに向かうこともある。
たとえば洋食屋に出掛けるときなど好都合だ。

定食屋の場合は主菜とごはんのほかに
少なくとも味噌汁がついてくる。
出来合いの貧相なものだとしても
お新香だって添えられるケースが多い。

ところが洋食屋では
仮にポークカツを注文したとすると
カツとライスだけということもある。
ほかは千切りキャベツくらいだから
半分ほど食べ進んだ頃には飽きてきて
何とも退屈な食事になってしまうのだ。

そんな折に1粒の梅干があると、その効果は抜群。
大げさな表現をすると、地獄で仏と相成る
飲食店に食べものを持ち込むのは
原則的にもってのほかだが、
どの店でも梅干くらいは大目に見てくれるし、
たとえおとがめを受けても
「医者から1日1粒をすすめられていましてネ」と
申し開きすれば、無罪放免は間違いない。
もっとも今までに見とがめられたことは1度もない。

いただきものは、紀州・石神の梅干。
和歌山県田辺市は白梅街道の
「石神邑」の手になるもので
紀州産の南高梅と皆平梅だけを原料に使う。
とろ〜りとした梅のエキスを周りにまとっており、
得も言われぬ風味が立ち上る。
塩気は極力排されて、酸味すら抑制気味で上品だ。

口に含むと穏やかな甘みが
ジワリと舌の上に拡がり、
鼻腔に抜ける香りが何かに似ている。
記憶をたどってハタと気がついた。
生のアーモンドの匂い、
そう杏仁豆腐の匂いじゃないか、これは!
梅干にはあるまじき、清冽な香りだった。

そのまましゃぶり尽くしてもいいし、
お茶うけや酒の肴でも本領を発揮する。
もちろん、おにぎりやお茶漬けにもピッタリだ。
「石神邑」の栞(しおり)によると、
耕地面積が狭小な紀州においては
穀物や野菜が育ちにくいのだという。

そう言われてみれば、和歌山県の特産は
梅干・みかん・備長炭くらいしかパッと浮かばない。
さて今日の昼メシはどこで食べようか。
1粒ラップにくるむとしよう。

 
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2007年11月22日(木)

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