「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第372回
「かんだやぶそば」の名調子

今年も師走を迎えた。
大晦日は紅白歌合戦を観ながら、
どんな年越しそばにするかと
思いをめぐらしたのは先週末。
すると、何となくそばが食べたくなり、
「かんだやぶそば」に向かった。

淡路町2丁目・須田町1丁目の
この界隈は昔、連雀町という粋な町名だった。
戦災を免れた古い日本家屋が散在していて
一人歩きも楽しい名店の宝庫と言ってよい。

「そば屋で酒を飲まぬくらいなら、そば屋には入らぬ」
池波翁正太郎が残した名言である。
エビスしかないビールもそこそこに
菊正の樽酒を上燗で所望する。
上燗というのは、ぬる燗と熱燗の中間くらいの温度。

練りみそと合い焼きを菊正の合いの手にお願い。
一なめした練りみそがまろやかだ。
あい焼きは合鴨と白ねぎの相思相愛で
昔ながらのそば屋の定番。
特にこの店のものは塩梅がよろしい。

続いてかきの卵黄焼きを。
オムレツ風に焼きあがって
かきのエキスがあふれんばかり。
そして穴子白焼きだ。
天ぷら屋で使われるサイズの
小ぶりの穴子はめそっ子と呼ばれる。
熱いうちにすだちを搾り、本わさびでやった。

2年ほど前に来店した際に天たねを注文すると、
1分と待たずに登場したことがあった。
見るからにいつもと様子が違うので
手でつまんでみると、はたして冷え冷えのカチカチ。
注文のダブリか何か、突発的な事故がらみで
そこいらに放ったらかしにされていたのを
これ幸いと回してきたに相違ない。
そのときは苦言を呈して、差し替えてもらった。
そんなことは二度とあるまいと
懲りずに頼めば、今回は熱々で運ばれて満足。

玉子焼きとしいたけの煮しめを芯にして
そばを海苔巻きにしたそばずしが美しい。
前回に試した小鍋仕立てのあさり酒蒸しが
煮立てても酒精分がトバずに不デキだったので
リベンジしようとも思ったが
相方ともども、じゅうぶんに飲み、
じゅうぶんにつまんだので、そろそろそばだ。

この季節ならではの、かきそばが旨い。
プックリと太ったかきが、
濃い口のつゆに浮かんでいる。
ねぎとの相性もけっこうで
そばがノビる間を与えず、一気呵成にたぐり終える。

ここでお腹は、いっぱいイッパイとなり、
締めのせいろうそばは断念する。
お勘定は2人で1万円でオツリが来た。
帳場を預かる女性が注文を通すときの
喉の名調子が耳に心地よい。
この声が聞きたくなって
「かんだやぶそば」を訪れる客も少なくなかろう。

 
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2007年12月4日(火)

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