「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第386回
開高健がバケツで食べたムール貝 (その2)

開高健が通いつめた東銀座の「シェ・ルネ」で
ニコラ・ポテルのサヴィニー・レ・ボーヌを
抜いてもらい、一杯飲み干したところ。
つい1ヶ月ほど前にブルゴーニュのその畑を
訪ねたこともあり、懐かしさと親近感が入り混じる。

そうこうしているうちに開高健が
お替わりに次ぐお替わりを重ねたムール貝が登場。
マリニエールというもっともポピュラーな料理は
世にいう白ワイン蒸しのことだ。

本場ベルギーやフランスの人々に習って
開高はムールの貝殻ではさんで食べたという。
それもまたシャレた食べ方ではあるが
やはり自分の指でつまみ出して
パクリとやったほうが格段に美味しく感じる。
インドの人にスプーンとフォークで
カレーを食べさせたら
欲求不満がつのるのと同じことだ。

ムール本体の味もさることながら
エシャレットとパセリが香るスープも
鍋底が見えるくらいにしっかりと味わった。
あさりでもしじみでも、はたまた、はまぐりでも、
貝類が自分自身の殻の中に閉じ込めたエキスは
すばらしい滋味・風味に満ちている。
ムール貝を食べながら、コイツで味噌汁を作ったら、
さぞ旨かろう、などと頭の中で空想していた。

お次は当夜入荷していた黒鯛のポワレ。
エストラゴンで風味付けされており、
エキゾチックな香りを放っている。
ステーキの定番ソースのベアルネーズに
使われる香草はもっともフランス料理的で
イタリアンならサルヴィアかオレガノに匹敵する。
生のまま用いられることが多く、
美食家のパセリの異名を取るセルフィーユは
イタリアンならバジリコに値しよう。
黒鯛もブルゴーニュの赤にピタリと寄り添った。
エストラゴンの威力がいかんなく発揮されている。

いよいよメインのシャトーブリアン。
牛フィレ肉の芯に当たる最上等部位である。
野球のバットの芯を想像していただければよい。
焼き方はレアに近いミディアムレア。
粗挽きの黒胡椒をまとう肉塊にスッとナイフを入れる。
肉汁あふれる真紅の肉肌を確認し、
フォンドヴォーをからませて一口ほお張ると、
霜降り肉とはまったく異質の、
脂のコク味より、血液の酸味が勝った旨みが
口中を独占してゆくのが実感される。

外食の際にはめったに口にしない牛肉料理だが
久しぶりにフィレステーキを堪能した。
海外で単身生活をしていた若い頃、
ステーキは簡単に作れるわりには大ご馳走で
自分でもよく焼いたものだった。
ロンドンではアルゼンチン産、
ストックホルムではデンマーク産、
シンガポールでは豪州産、
ニューヨークでやっとホーム・プロデュース。

ずいぶん長いことステーキを焼いていないが
近々キッチンに立ってみよう。
雷門の「松喜」でフィレともも肉を買い込み、
食べ比べてみよう。
その結果はまた、当ブログにて発表いたします。

 
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2007年12月24日(月)

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