「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第423回
「椿三十郎」のあとの鮟鱇鍋(その1)

世界の巨匠・黒澤明の作品では
「椿三十郎」がもっとも好きである。
僅差の2位が「用心棒」。
時代背景は異なるが、姉妹篇とも呼べる2本の映画は
主役の三船敏郎が同一人物とも思えるキャラクターを演じ、
ともにクライマックスでは敵役の仲代達矢と対決する。

「生きる」や「赤ひげ」など
ヒューマニズムにスポットライトを当てた
作品もけっして嫌いではないが
晩年の「影武者」や「乱」は好きではない。
黒澤は娯楽映画にこそ本領を発揮する大監督だと思う。

そして何を差し置いても
黒澤映画を支えた立役者は三船敏郎だろう。
サムライのイメージを全世界に植えつけたのも彼だ。
歴史上の人物、大石内蔵助でも宮本武蔵でもない、
俳優・三船敏郎が外国人の思い描くサムライ像なのである。
コスメティックにも進出したアラン・ドロンが
作り出したフラグランスの「サムライ」は
三船をイメージしたものだという。

とにもかくにも三船抜きでは
「用心棒」と「椿三十郎」は
日の目を見ることがなかったハズだ。
その「椿三十郎」が森田芳光監督によってリメイクされ、
織田裕二が三十郎を演じると聞いたときは耳を疑った。
「おいおい、大丈夫かいな?」―不安が脳裏を掠める。

それでも大好きな映画につき、看過するわけにはいかない。
封切り間もない12月では映画館も込み合うだろうと
年が明けてしばらくしてから錦糸町の楽天地に出掛ける。
客の入りはそこそこながら、どちらかと言えば空いていた。

観終わっての感想。
白黒からカラーになって紅白の椿が美しい。
姫様役を黒澤作品の団令子にやらせたかった。
ついでに奥方も入江たか子がいいな、やはり。
ついでに城代家老を伊藤雄之助に戻しちゃえ。

9人の若侍はみんな似たり寄ったりの顔つきで
誰が誰だかよう判らん。
加山雄三&田中邦衛みたいな個性派が必要だ。
見張りの侍だって小林桂樹でなければ、
あのトボケた味は出せないよ。

救いがたいのは豊川悦司の室戸半兵衛。
森田監督、最大のミスキャストでありんした。
これは豊川のせいではなくて、監督の失敗ですな。
もっとも黒澤作品の仲代達矢と比べちゃ、
豊ちゃんが可哀想というものだ。

唯一、よかったのが老醜振りまく悪役トリオ。
黒澤では志村喬・藤原釜足・清水将夫が演じたが
森田の小林捻侍・風間杜夫・西岡徳馬が揃って好演。
殊に風間がキラリと光り、新境地を開く出来映え。
名脇役・藤原釜足に勝るとも劣らぬ演技であった。

肝心の織田三十郎について語る紙面がなくなった。
それよりも「食べる歓び」なのだから
鮟鱇鍋にふれなければならないのであった。
これはまた明日、
両方まとめて鍋にブチ込みますので悪しからず。

          =つづく=

 
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2008年2月14日(木)

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