「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第440回
築地市場で食べる人気の天丼(天丼三連荘・その3)

天丼ばかりを食べていて思いあたった。
魚介や野菜にコロモをつけて油で揚げ、
丼つゆにくぐらせて、白飯に乗せただけのものなのに
意外と飽きがこないものだと。
これがソース味や味噌味など
ヴァリエーション豊富なかつ丼ならまだしも
親子丼ではいやになってしまっただろう。

天丼はつゆっ気の少ないのがありがたい。
どんぶりの底にたまるつゆにはまったく閉口する。
ただそれも好きずき。
人によってはつゆの多いのをシャバシャバと
かっ込んでシアワセと感じる向きも少なくない。

つゆだくの牛丼などはまさしくその典型で
言っちゃあなんだが、若い女性がつゆだくの牛丼を
肩を揺すってかっ込む姿を見るにつけ、
この国の将来はどうなるのだろうと不安になる。
あれほど醜い姿はない。
そもそも茶碗やどんぶりに直接口をつけて許されるのは
お茶漬けだけと、昔から相場が決まっているのだ。

余計なおせっかいはやめよう。
気を取り直して、今日の天丼の紹介は
築地場外の「天ぷら 黒川」。
以前、市場で働いていたというSクンを誘って出掛けた。
土曜の朝の10時半だというのに店は立て込んでいた。
乳児を背中におぶって天丼をほおばる若いお母さんがいて
久しぶりに目にする景色、なかなかの根性の持ち主とみた。

カウンターに落ち着いての注文品は上天丼(1100円)。
野菜好きのSクンは野菜天丼(900円)。
この人は居酒屋あたりでも
野菜メニューばかりを注文している。
放っておくと、冷やしトマトなんぞをずっと食べ続けている。
そのせいか性格がいたっておだやかだ。

目の前の店主は手八丁・口八丁で
その仕事ぶりは見ていて飽きない。
俳優の三橋達也にちょっと似た面立ちだ。
彼をアシストする若い衆と
お運びの女性にテキパキと指示を出す。

5分少々で出来上がった上天丼の内容は
小海老2尾・姫はぜ・帆立・菜花・にんじん。
海老がちょいと貧相だが、姫はぜがそれを補う。
数年前に店主に訊ねたところ、
姫はぜは成長しても小柄なままのハタの一種で
紅小鯛の別名を持つ珍しいサカナとのことだった。
店主曰く、キスだと当たり前すぎて
天丼の彩りに変化を与えるには
もってこいの天種なのだという。
確かに「黒川」以外で見掛けたことはない。

ボリューム感に欠けるきらいはあるが
じゅうぶんに楽しめる上天丼だった。
Sクンの野菜天丼はというと、
かぶ・つるむらさき・にんじん・うるいに
柚子風味の生麩といった陣容。
かなりのサイズのかぶに存在感があり、
生麩が恰好のアクセントとなっている。

肩を並べて八丁堀方面に向かうと雲行きが急変。
やおら突風が吹き荒れ始めて
みるみるうちに視界が黄濁して霞む。
電車をも止めてしまう、大変な午後の始まりであった。

 
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2008年3月10日(月)

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