「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第446回
どぜう屋で 牡蠣と鰯も味わう

とある冬の夜に
季節はずれのどぜうが食べたくなった。
一年を通して食べられるが、旬は夏である。
胸元に団扇の風を送ってやりながら
汗をかきかき、鍋をつつくのが
どぜうの醍醐味なのである。
それでも冬に食べたくなったものは致し方ない。

さあて、どぜうとくればJ.C.が行きたくなるのは
深川は高橋(たかばし)の「伊せ喜」と
浅草は吾妻橋の「ひら井」のどちらかだ。
「飯田屋」と「駒形どぜう」はちと有名になりすぎた。
コイントスで決めようとも思ったが
思いとどまっての思案投げ首。
2軒目に流れたときに、なじみの店が多い浅草を選択する。

どぜうならば、独りでも一向に構わぬが、
相方がいるに越したことはない。
心当たりの友人に電話を掛けて誘うと
2人目で早くもヒットした。
今日の今日ではもう少し苦労すると思いきや、
案ずるより産むが易しであった。
ただし到着が20時を回るとの事で
1時間近く時間をつぶさねばならない。

浅草1丁目1番地の「神谷バー」のポテトサラダで
アサヒの生ビールをグビッとあおるか、
あるいは、かんのん通りの「志ぶや」の小肌酢で
キリンの瓶ビールをクイッといくか、
再び悩むJ.C.であったが、どちらに転んでも
根っからのビール好きには魅力十分ではある。

ところが、ふと名案がひらめいた。
この時期の「ひら井」には牡蠣の天ぷらがある。
当夜の相方は牡蠣アレルギーの持ち主だから
到着の前に牡蠣天を肴にスーパードライの大瓶を
1本やっつけようという算段が成り立って
「ひら井」に直行したのだった。

突き出しの酒盗おろしに続いて
4カン付けの牡蠣天に
青唐・しいたけ・さつま芋が添えられたのを
粗塩とすだちで食べ終えた頃、
ヤッコさんがおっとり刀で現れた。
思ったよりお早いお着きでけっこうなこった。

ビールを追加しながら
菊正の上撰を上燗でお願いしておく。
つまみはほかに玉子焼きと鰯の三杯酢。
小肌は言うに及ばず、鰯や鯖はもとより、
鯵もサヨリもキスさえも、およそひかりモノと
名の付くものは酢〆に限る。

どぜう屋に居ながらにして
牡蠣と鰯を堪能したあとは、どぜう鍋を2種類。
言わずと知れたマル鍋とヌキ鍋である。
ともに甲乙つけがたく、
つけようとする所業自体が馬鹿げている。
この夜のマルは下煮が浅いためか体表のヌルヌルが強く、
骨もやや固いのだが、むしろそれがよかった。
割き立てのヌキも負けず劣らずの口福をもたらす。

東京都内にほんの数軒しか残っていないどぜう専門店。
世界に類を見ない珍妙なサカナのユニークな料理法。
この伝統を守り続ける店々に思いを致すと
行く末永くと祈らずにはいられない。


【本日の店舗紹介】
「ひら井」
東京都墨田区吾妻橋1-7-8
03-3622-7837

 
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2008年3月18日(火)

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